クルマの個性に大きく影響を及ぼす「マーケティング」って、一体なに?

クルマの個性に大きく影響を及ぼす「マーケティング」って、一体なに?
     
   

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現代のクルマは理想主義的には作られていないんですね。ですが、ひと昔前までは違いました。それぞれのメーカーが抱く信念にもとづいて、自社の理想像をカタチにして世に送り出していた。

そういったプロダクトは、研究開発費がかさみ、コストも高いから、クルマも当然高額にならざるを得ないわけで…。しかし、いいモノは売れる、そういう時代でもありました。

その後、自動車産業を取り巻く環境は急激に変化して、どんどんとグローバル化する。競争相手が一気に増えるわけです。

世界中の自動車メーカーがライバルとなり得る。しかも、新参のメーカーはブランド力ではかなわないから、わかりやすいスペック上の性能や、価格競争力で勝負を挑んでくるわけです。

しだいに混沌としていくグローバル市場を制する切り札とは?

それでも、伝統がある欧州のハイブランドなクルマと、アジアの安くて性能はよいけれどもブランド力の弱い自動車では、求めるユーザー層が明確に異なっていることもあって、当初はうまく住み分けられているようにも見えました。

けれども、後発メーカーの躍進は想像以上に凄まじかった。追いつけ追い越せではないけれども、独自の理論展開で市場のシェアを短期間で拡大させたんです。

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では、ここでひとつ質問です。「ヒットするクルマに必要な条件」ってなんだと思いますか?

答えはカンタンです。多くの人に気に入ってもらうことです。

すごく性能が悪かろうが、デザインがダサかろうが、スピードが自転車より遅かろうが、誰もが気に入るようなクルマであれば大ヒットします。極論ではありますが。まあ最近では、デザインがよいことは必要最低条件で、デザインがよくないとクルマは売れませんけれど…。

つまり、乗ってみてとてもよいクルマであっても、多くの人々の関心を惹かなければ、決して売れません。その場合、なにかしらの問題があるわけです。時代のニーズに合っていないだとか、デザインがいまひとつであるとか、コンセプトが古いであるとか。

そこで、今では多くの自動車メーカーがクルマを開発するにあたって、まず最初に行っているのが、マーケティング調査です。 これは、開発するクルマのターゲットとなる購買者の年齢や性別、家庭環境や職種、趣味や収入などをあらかじめ設定して、その人たちの嗜好を徹底的に調べ上げるんですね。

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なぜかというと、クルマを売り出す前に人々の反応を知るためです。言ってみれば予習ですね。 気に入ってもらえないと売れないならば、気に入ってもらえるクルマを作ればいいわけで、 「じゃあ、どういう商品であれば気に入ってもらえるのかを、前もって調べましょ!」っていうのがカンタンにいえばマーケティングの一部です。

お客さんはどういったファッションを好み、何を食べ、週末はどこへ出かけて、音楽は何を聞いて、読書は?映画は?職場での肩書きは?もう何から何まで調べるんです。 そうして「じゃあ、こういった要素を盛りこんでいくと気に入ってもらえるんじゃないか?」という方向性が徐々に見えてくる。

つまり、以前は理想主義的に作られたクルマを一方的に売っているだけだったのに対し、 今ではメーカーが消費者に歩みよったわけです。 これによって、さまざまなタイプのクルマが誕生することとなったわけですが、マーケティングを巧みに利用したメーカーはシェア争いで一気に躍進したのです。

マーケティングが担う、もうひとつの役割?

それと同時にもうひとつ大事なことがあります。 ユーザーのニーズを巧みにくみ取ってクルマ作りにいかす、それだけがマーケティングではないんです。

メーカーにとって、もっともっと重要なのは、そこにパイ、潜在的消費者層があるのかどうかなのです。

例えば、魚釣りをイメージしてみて下さい。水面に向かって糸をたらしても、いっこうに魚が釣れる気配はありません。はてさて、エサが悪いのでしょうか?釣り針のサイズでしょうか?時間帯かもしれません。そもそも、季節が違うのかもしれない。場所が悪いのでしょうか?

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クルマが売れなかった場合、自動車メーカーも同じ気持ちでしょう。デザインなのか、価格なのか、性能なのか、競合するクルマに負けたのか?

そんなときに、魚群探知機があったらどうでしょう? 少なくとも、魚がいるかいないか、いっぱいいるのか、ちょっとしかいないのか、それがわかるだけでも答えにグッと近づきますよね?

マーケティングは、そういった役割も果たします。購入層がどのくらい存在するのかを、事前に把握してしまうのです。魚がいないところに釣り糸をたらしても無意味極まりない。 魚がいるところを見つけて、そこめがけて釣り竿をふるわけです。

実に、効率よく洗練された方法だと思いませんか?

マーケティングがカタチになるとオモシロい!

マーケティングをクルマの開発にいち早く取り入れたトヨタ。そのデータ収集能力もさることながら、活用と応用の手腕もグローバルリーダーと呼ばれるゆえんです。

今回は使用用途が限定されている分、よりハッキリと特徴が出ているという理由からトヨタの営業車「プロボックス」にスポットライトを当ててみましょう。

トヨタ プロボックス  トヨタ自動車WEBサイト

photo by トヨタ公式サイト

まずこのクルマは営業車ですから、当然ですが運転するのは営業マン、つまり外回りをするビジネスマンです。そこで、トヨタが調べたデータとそこから出した回答とは?

それは豊富な収納です。とくに、ドリンクホルダー。前席だけで4つもあります。外回りの営業マンはだいたいクルマと取引先で日中を過ごす。そうすると、飲み物も車内で飲むしかない。それが毎日だと、ドリンク代も結構かさむでしょう。

ですから、たいていの営業マンは四角い紙パックのドリンクを買って飲んでいるんだそうです。あの四角い紙パックの飲料って、丸いドリンクホルダーには入らないですよね。だけども、プロボックスには紙パック対応のドリンクホルダーが付いています。

しかも、調査の結果、500mlではなくて、コスパのいい1Lの方をほとんどの人が選んでいるそうで、プロボックスのホルダーはちゃんと1L対応になっています。さすが!

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photo by トヨタ公式サイト

そして、いまやスマホは必携のアイテム。営業マンにとっても、仕事にはもちろん、休憩中にもマストなアイテムでしょう。

当然、プロボックスには「マルチホルダー」なるスマホやメモ帳などを収納するホルダーが備え付けられております。スマホを充電するためのシガーソケットだけでなく、なんとコンセントまでありますから、パソコンへの充電も可能。至れり尽くせりですね。

さらに、プロボックスならではの装備といえば先代モデルでも好評だったインパネの中央に設けられた引き出し式のテーブル。食事をとるのにも便利ですし、ノートパソコンの重量にも耐えられる設計なので仕事もできちゃいます。

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photo by トヨタ公式サイト

運転席のシートは、長時間のドライビングでも疲れないように設計されていますし、前と左右の窓ガラスは可能な限り立ち上げられ、良好な視界が確保されています。

運転席と助手席の間には、ビジネスバッグをそのまま置くことができるスペースまで用意されるといった具合に、営業マンの日常を調べ上げて、彼らにとって使い勝手のよい道具を提供しようとさまざまな工夫が凝らされていることがわかるクルマなんですね。

さっすがトヨタ!と唸らざるを得ないマーケティングの勘どころ

このクルマには、入念に使う人のことを調べて色々な知恵と工夫が盛り込まれています。しかし、しかしなんですね。 それにもかかわらず、ナビがない!バック・ビュー・モニター(リア・カメラ)もない!

外回りで、もしかしたら初めての訪問先もあるかもしれない。営業先では駐車場にバックで止める機会も多いことでしょう。ですが、いずれの装備も最近では標準装備化が一般的となっているにもかかわらず、すべてのグレードでオプション扱いとなっているのです。

その理由はなんなんでしょう?実は、これもまたマーケティングによる判断なんですね。

クルマを運転するのは営業マンに違いありませんが、購入権を握っているのは彼らではないのです。 往々にして、経営者だったり、総務部だったりするのです。

Businessman standing with arms crossed and colleagues in the background

そして、だいたい営業車は200万円を超えると確実に購入対象から外されるそうなんです。ですから、プロボックスの価格帯をみてみると約132万~約169万円と諸経費を入れて200万円を超えないような配慮が見てとれます。

また、年配の経営者の場合には、自身が地図を片手に得意先回りをした経験から「ナビなどいらん!」と断言することも多いとか。 特定のクライアント回りが多いというケースもあるなど、ナビをあえて標準化しない理由がさまざまにあるようです。

燃費や環境性能が優れているだとか、荷物がたくさん積み込めるといった多くの人が必ず口にする条件はキッチリと果たしたうえで、細かいところまで徹底して工夫をこらし、配慮してくる。 それが、的はずれな押しつけがましいものでなく、買うひとや使うひとの意中を察した「そうそうコレ、コレ!」となるのはマーケティング技術が優れているからなんですね!

営業マンのハートをシッカリとつかみながらも、エサのついた釣り針は別のところに投げる…そんなことを具現化したクルマがプロボックスです!

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