3か月にわたってモータースポーツの「世界三大レース」を取り上げるこの企画。第1回目はもっとも華やかなイメージのある「モナコGP」の特集です。今やF1グランプリの1レースとして非常に有名ですが、どんな歴史があるのでしょうか。また、このレースが普通のグランプリとどう違うのか、見どころはどんなところなのかもあわせてご紹介。これを読めば、ますますテレビ観戦が楽しくなること間違いなしです。
モナコGP前史
モナコGPの主催者である「モナコ自動車クラブ(ACM)」は、もともと1890年に「モナコ自転車クラブ」として発足しました。1925年に自動車クラブへと改名、国際自動車公認クラブ協会(AIACR、現在の国際自動車連盟)に登録申請を行います。しかしレース開催経験の少なさから、申請は却下されてしまいました。
ここでACM会長アレクサンドル・ノゲの息子であるアントニーは、モナコの市街地を利用して公道レースを行う計画を立て始めます。市街地でのレース開催はほぼ前例がなく無謀な計画だと思われていましたが、モナコ大公であるルイ2世などの理解を得ることに成功。1929年には第1回大会が開催され、ACMはAIACR加盟を認められました。これが、現在まで続くモナコGPの起源です。
「伝統のモナコ」と実況アナウンサーが語る理由
その後第二次世界大戦前後の中断(1938~1947年、1949年)と1950年代前半を除き、毎年開催されているモナコGP。1950年のF1発足時より、同シリーズに組み込まれるようになりました。ちなみに同様にF1発足時から組み込まれているレースにはイギリスGPやベルギーGP、イタリアGPなどがありますが、同じコースで開催されているのはモナコGPのみとなります。「歴史と伝統のモナコ」とはモナコGPを語る上で名文句ですが、まさしくそのとおりで格式の高いレースなのですね。
観戦者は楽しいが、ドライバーにとっては難コース
モナコGPが普通のレースと違うところは、歴史や伝統だけではありません。普段は人口3万人ほどの街に、レースウィークともなると20万人もの人々が訪れます。しかも観客席だけでなく、豪華客船やクルーザーのデッキから観戦するセレブリティの姿も。レース中の国際映像からは美しい街並みと海という、普段のレースとはまったく異なる景色が映し出されています。とても優雅な光景ですが、ドライバーたちにとってはとても過酷な難コースとして立ちふさがるのです。3,000~4,000回にも及ぶシフトチェンジ、公道であるがゆえのコース幅の狭さ、舗装の悪さがそれを証明しています。
ドライバー最高の栄誉、モナコマイスター
「モナコGPでの1勝は、他のGPでの3勝に値する」といわれているのは有名な話ですが、これは前述したようにドライバーの腕が試されるテクニカルコースだからです。この難しいコースでのレースを3度制覇した「強運の持ち主」は「モナコマイスター」と呼ばれ、賞賛をもって迎え入れられます。黎明期にはスターリング・モスやグラハム・ヒルといったドライバーが、1960~70年代ではジャッキー・スチュワートが名を連ね、1980年代以降になるとアラン・プロスト、ミハエル・シューマッハ、ニコ・ロズベルクらがこの名声を得ています。しかしもっとも有名なのは、なんといっても6度もこのレースを制したアイルトン・セナでしょう。これは史上最多記録であり、いまだに破られていません。
ズバリ、このコースの見どころは?
それでは、モナコGPが開催されるモンテカルロ市街地コースを見ていきましょう。まずは軽く左に曲がって鋭く右にカーブしている1コーナー「サン・デボーテ」です。ここは毎年のようにスタートが荒れ、接触事故が頻繁に起こっています。観る者にとっては数少ないモナコの抜きどころであり非常に人気の観戦スポットなのですが、ドライバーにとってはもっとも集中力と度胸が必要とされる場所といえます。
「ボー・リバージュ」と呼ばれる上り坂を経て、マシンは「カジノ・スクエア」に入ります。このコーナーは非常に脱出が難しく、ひとたびミスをしてしまえば、即ガードレールが迫ってきます。そこを無事にクリアすると、右の低速コーナー「ミラボー」が待ち受けます。そして名所のひとつである「ロウズ・ヘアピン」で、マシンはもっとも低速になります。ここでも熱いバトルが見られますが、明らかにオーバースピードで突っ込むドライバーもいて波乱が起きやすいスポットでもあります。
その後、「ポルティエ」を抜けるとドライバーの左側には地中海が広がりますが、すぐに待ち受けているのが「トンネル」。このコース最高速となる280km/hで駆け抜けていきます。次に待ち構えるのは「ヌーベル・シケイン」。トンネルからのブレーキング勝負となり、ここもモナコのパッシングポイントに数えられています。そして「タバコ」「プール」といったコーナーを経て、ヘアピンコーナー「ラスカス」に入ります。かつては難コーナーと呼ばれていましたが、2003年に改修され難易度は少し下がっています。最後にモナコGP開催功労者、アントニー・ノゲの名を冠した「アントニー・ノーズ」を曲がって1周となります。
こうして見てみると、このコースは「サン・デボーテ」「カジノ・スクエア」「ロウズ・ヘアピン」「ヌーベル・シケイン」「ラスカス」が特に見ごたえのある場所いえるでしょう。もちろん全体を見てもバトルがあちこちで行われているので、見る側も一瞬たりとも気が抜けません。
序盤の天王山となるモナコ、今年は誰が制覇するのか?
多くのセレブリティやファンが見守る中、いよいよ5月25日からスタートする伝統のモナコGP。下馬評どおりメルセデスの圧勝となるのか、それに待ったをかけるチーム、ドライバーがあらわれるのか、非常に興味深いところです。一ファンとしては1992年のナイジェル・マンセルとアイルトン・セナのような、チェッカーを受けるまで両者一歩も譲らないガチンコの走りが見たいと願っています。マクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソがインディ500参戦のためこのレースの出走をキャンセルしたのは非常に残念ですが、ぜひテレビで観戦できる方は興奮を味わってみてください。きっと、このスポーツの楽しさや素晴らしさが伝わるはずですよ。