私の頭の中のオトコ査定 Ver.3 ~ベンツオーナー編~

私の頭の中のオトコ査定 Ver.3 ~ベンツオーナー編~
     
   

 私がその男と出会ったのは、都内の某スタジオで開催されたハロウィンパーティーだった。その年のハロウィンはちょうど土曜日で、仮装をした若者たちで渋谷がごった返した様子が、翌日のニュースで報道されたのは記憶に新しい。

ごく一部の限られた人だけが招待されるそのパーティーには、芸能人や歌手、芸能プロデューサー、有名雑誌のカメラマンが集うと友達A子から聞き、彼女のツテで運よく参加させてもらったのだ。

業界人の集うパーティー。そこには…

六本木のドンキを左手に、暫く東京タワーの方へ歩いていく。招待してくれた友達から送られてきた地図とにらめっこをしながら場所を確認すると、そのスタジオは一見すると存在がわからないほど“六本木の奥地”にあった。

地下に続く階段を下り、受付を済ませて中に入ると、目の前にはダンスホールかと思うくらい広い「箱」が広がり、そのホールの真ん中には大きなテーブルが設置され、ケータリングの料理やドリンクの合間にはゆらゆらとろうそくの灯が揺らめいている。

周りには業界人らしい雰囲気をまとった男と(仮面なんてかぶられたら雰囲気も何もないが)、「金と権力の色眼鏡をかけた」20代前半の小娘たちが泡と呼ばれるシャンパングラスを片手に、その男たちの周りで歓談している。

「業界っぽい」雰囲気に圧倒されて一瞬ひるみそうになりながらも、業界人のネットワークを日々開拓しているA子の横で料理をつまみながら、周りの仮装の気合の入りようを観察していた。その時、

「1杯おごらせてよ」とある男が声を掛けてきた。

声を掛けてきたその男は、中肉中背で背は160cm程しかないだろうか、かなり低めの印象だった。背の高い私だと見下ろしてしまうくらいで、明らかにA子を目当てに話しかけてきたのが分かる。A子へ向ける目線を逸らさない。

ベンツと聞いて浮かぶのは?

よくよく話を聞いてみると、一緒にいる男たちは二代目社長や一代で会社を築き上げた30代後半の友達同士のようだ。最近は東南アジアに旅行に行ったり、夏には静岡や茨城の方までツーリングに行くことも多く、皆車が趣味だと言う。そのご一行はハロウィンだというのに変装はしておらず、その場の雰囲気を外野から楽しみに来たようだ。

車好きな男に車の話を振っても気を悪くすることはないので、何に乗っているのかさりげなく聞いてみた。A子目当てのその男は、ベンツSL 63に乗っているとのこと。「ベンツ」と聞くとすぐに頭の中に過るのは、こんなプロフィールだ。

「『金さえあれば、何でもできる』成り上がり男」

年収:1000万以上(Eクラス以上に限る)

職業:建設・不動産関係の中小企業経営者、説明がいまいち難しそうな職業

特徴:ブランドは自分を高めてくれるステータスだと思っている。メジャーなブランド物をいくつも身に着ける傾向があり、個性の強いブランドを一緒に合わせるので、ジャラジャラ感が否めない。

a masculine bearded man isolated over a black background

ベンツオーナーには土建屋さんが多いのか?

その男が建築関係の仕事をしており、ベンツを持っていると聞いて、「たしかに」と頷けてしまう。もちろん全員ではないが、ベンツオーナーにはスマートさよりも、寧ろ成り上がり感を感じてしまうのだ。

暗がりなのではっきりとは見えないが、身に着けているものはブランド不明のシルバーのアクセサリーに、フェラガモのスカーフ、フランクミューラーの時計だろうか。ブランドの組み合わせも色々だが、主張の強いブランドアイテムを複数身につけるとトゥーマッチ……。そこまで「俺は持ってる」感を出したいか?!

都内でベンツに乗っている男女を横目に見ると、BMWやアストン、ポルシェオーナーにはないぎらつき感があるのは気のせいではないのかもしれない、とふと思った。

前述の通り、ベンツオーナーには何故か建設や不動産関係の人が多いのも特徴だろう。彼らの中には「高級車に乗れるようになったなら、とりあえずベンツ」という考えがあるようだ。

少し会話が進むと、ベンツ男が友達を一通り紹介し始めた。

「彼はレストラン経営者で、外苑前にお店を持っていて・・・・・・」

「彼は京都に老舗の旅館を経営している後継ぎで・・・・・・」

ここで感じた違和感。

ベンツ男、ステータスを全面に押し出してきやがる。

いや、たしかに凄いと思いますよ。「えーーすごおおい!」とか言ってみますよ。でも、初対面でそこまで「俺たちすごいんだぜ」ってアピールしなくても良くない?(笑)あーはいはい。わかりました。凄いですよ。(冷めた目)

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ベンツオーナーは「持ってる」ことを誇示したがるのか!?

BMW好きのA子には、このベンツ男はいまいち魅力的には感じなかったようで、明らかに興味がなさそうに相槌を打って会話を続けている。ベンツ男の上から目線な物言いが、癪に障り始めていた。

バッグや小物にブランドロゴが入っていると、「いかにも」な感じを毛嫌いする人が多いが、ベンツは車の顔にブランドマークがここぞとばかりに全面に押し出されているので、「俺はベンツに乗ってるんだぜ」と誇示されている感じがしてしまう。ベンツって乗り心地も抜群だし、車の性能としては申し分ないんだけどなぁ……ベンツのどのタイプの車にも付いている「あの」ベンツマークの主張力はすごいのだ。

2杯目のドリンクはテーブルで飲もうと誘われたが、上手く交わしてその場を離れた。私が出会うベンツオーナーがただ単に特殊なのか、そうではないオーナーもいるのか……そんなことを考えながら、高級車ブランドごとに見えてくるオーナーの個性の違いって面白いもんだな、とつくづく思ったのであった。

(文/シーナ・リリー)

東京カレンダー「花より高級車」連載

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