シリーズ月刊高森は、元横浜ベイスターズの高森勇旗氏がここでしか読めないエピソードについて語る企画です。第4回の今回は、甲子園スペシャルということで高森氏のマル秘視点をご紹介します。
第1回
「プロ野球選手っぽくある」ことも意外と大変。元ベイスターズ高森 勇旗が語る野球×車 秘話
第2回
「買う・乗る・語る」だけが車じゃない。高森勇旗だけが知っている助手席のエピソード
第3回
「一般人は決してプロ野球選手と焼肉に行ってはいけない」元首位打者 鈴木尚典と一晩で7500kcal食べた話
夏です。
Photo By Horia Varlan
甲子園、盛り上がっております。
高校球児ならずとも、甲子園は日本国民の夏の風物詩ですね。
そうそう、個人的な話ですが、先日俳句の句会に出たんです。そこで、「甲子園」って夏の季語ですよね?っていう話になったのですが、甲子園は春のセンバツもあるので、夏の季語にはなりません、と。
いやいや、夏です。
Photo By Horia Varlan
僕も本気で甲子園を目指していた元高校球児です。結局僕は1回も出られなかったのですが、行きたくて行きたくて、何度夢に出てきたことか。今でも、甲子園に行けなかったことは心残りです。
そうそう、個人的な話ですが、そこまでして憧れていた甲子園、プロ4年目のオープン戦で初めて土を踏んだんです。
いやぁ、感動しました。
舞い上がっていたんでしょうね。
「甲子園だー!」
っていう気持ちで受けたノックの1球目にトンネル。
「あれ、俺甲子園に嫌われてる?」
って本気で思いました。
9回表、確か2点負けていて、先頭の金城さんがフォアボールで塁に出ました。そこで代打高森。
「あの甲子園で打席に立てる」
高鳴る鼓動。何度も夢に出てきたバッターボックスからの景色。ピッチャーは07年に90試合投げた鉄腕久保田投手。
打ったのはインコース寄りの確かカットボール。そこそこいい当たりの、セカンドゴロ。完璧なダブルプレー。
「俺、やっぱり甲子園に嫌われてるんじゃないか」
阪神ファンから
「誰かわからんけど、ナイスゲッツーや!」
と野次られながら、見上げた甲子園の空には春の風が吹いていました。
えっ、いや、夏です。
Photo by Berit Watkin
この暑さで頭がおかしくなったのか、ちょっと訳のわからない話をしてしまいました。
お気付きの通り、今回の話題は甲子園、高校野球です。野球選手とクルマというテーマはどこへ行ったのか。
前回の焼肉の話が予想通りヒットしたので、気分が良くなってしまいました。もうクルマの話は出てこないと思います。というわけで、高校野球の話をしましょう。
僕、僭越ながら、アマチュア野球のドラフト候補選手の批評を何度か書かせていただいております。
元プロ野球選手であることや、辞めてすぐアナリストの仕事をしていたこと、モノマネがうまいこと(観察力がかなり必要なんです)など、様々な切り口から選手を見ています。
そこで、
「プロで通用するかどうか」
「将来性があるかどうか」
など、どのような視点で見ているかを少しだけ公開しようと思います。
(仕事がなくなっちゃうので、シェアはあまりしないでください)
プロで通用するか、将来性があるかを判断するための2つの視点
切り口は大きく2つです。
1つ目は、野球が上手いかどうか。
2つ目は、身体能力が高いかどうか。
この時点で、「そんなの当たり前だろ!」と思った方、もう少しだけお付き合いください。
大事なのは身体能力
1つ目の、野球が上手いかどうかというのは技術的なことになりますので一旦置いておきます。
大事なのは、2つ目。身体能力です。この身体能力をさらに2つに分けます。
筋出力が高いタイプか、
身体表現能力が高いタイプか。
筋出力とは
筋出力タイプとはどういうことか。まず前提として、18歳という年齢は個人差ありますが身体発育途上です。
そのため、筋の発達が早く、また筋出力が強い選手はそれだけで技術を凌駕してしまうほどのパフォーマンスが発揮されます。
このタイプの選手は、早熟なだけの可能性がありますし、調子の波に左右されやすい傾向があります。
2週間で大会が終わる甲子園に調子を合わせることができれば、驚異的なパフォーマンスを発揮できます。
身体表現力とは
身体表現能力とはどういうことか。
これは僕が勝手に作った言葉ですが、簡単に言うと、シンプルに体を使えているかどうかです。
・関節が本来ある位置で動いているかどうか。
・体重移動のエネルギーを正確にボールに伝えられているかどうか。
・より大きな筋肉を使ってプレーできているかどうか。
この表現能力はかなり重要です。
もう少し詳しく説明します。
打者の場合、どこを見るか
打者の場合どこを見るかというと、トップの形です。特に重心の移動と、位置。
例えば、高校野球を見ていると、無駄な動きが非常に多い場合があります。打席の中で大きく動いたり、重心の位置を無駄に下げたりします。
しかし、あれはあれで気持ちはよく分かります。打席の中は異様な緊張感があったり、しっくりこなかったりするので、大きく動いてしっくりくる場所を探しがちです。
ですが、その動きによって自分の重心をセットしてしまうと、体の状態、つまり筋肉の少しのハリや疲労などで重心の位置が微妙にずれます。
このずれが積み重なって、最終的にインパクトでずれが生じます。打つ瞬間に1ミリずれるだけで結果が変わるのに、構えた時点で数センチずれていたら、いくら打つ瞬間に修正されるといっても、やはりずれます。
よりシンプルに、より簡単な動きでトップや重心が決まる選手の方が、調子の波に左右されにくいのです。
この表現で伝わるかどうか分かりませんが、
筋肉で構えるのではなく、骨で構えるのです。
自分の力でバットを引いてトップを作るのではなく、骨の上に乗っかっている感覚でトップを作るのです。
力むことなく、自然の流れで体はあるべき位置に収まります。そうすることで、少ない力で最大のパワーが発揮されます。
投手の場合
投手の場合。僕が一番見ているのは、足が頂点に上がるまでのスピードと、その姿勢です。
振りかぶって、足をゆっくりと上げるのはカッコイイし、いかにも投手らしい。
ですが、あれはすごく技術と体力を要するんです。ゆっくりと足を上げるのと速く上げるのでは、100回同じ動きを繰り返せと言われれば、速く上げる方がはるかに簡単です。
(ペンでノートに真っ直ぐな直線を書けと言われた時、「シャッ」と速く書いた方が真っ直ぐ書きやすい。ゆっくり書けば書くほど、線がデコボコになりやすい)
違いは疲れてきた時に出る
体が疲れてきた時に足をゆっくり上げると何が起こるかというと、足が違うルートを通り始めます。
ずれたルートで上がった足が頂点に達した時、その姿勢も少しずれやすい。その状態から踏み込んで投げに行くのですが、最初の段階でずれているので、リリースもずれやすい。
ずれたバランスでリリースだけ調整しようとすると、小手先の力に頼りだすので、余計に肩や肘の小さい筋肉に負荷がかかる。
怪我をしやすい選手の共通点
怪我をしやすい投手の多くは、リリースでなんとか頑張ろうとする。少ない力で大きなパワーを発揮できる投手は、足が上がった時の姿勢が美しい。そして、そこに入るまでのスピードも非常に速い。
みんな、スッと足を上げ、頂点の形が美しいですね。軸足が伸び、真っ直ぐ立つ。その状態から踏み込んでいくので、力を特別入れることなく勢いをつけられます。
頂点の姿勢が安定しているので、リリースも安定してきますね。
ここでも、筋肉ではなく、骨の上に乗っかれているかどうかです。片足で立った時に、足首、膝、股関節が真っ直ぐに並び、背骨も綺麗に並んで、その上に頭がある。
その状態からスタートできていれば、特に力を入れることなく勢いを獲得できます。あとはその勢いを踏み出した足がちゃんと受け止められるかどうか。受け止めた力を、今度はリリースの指先まで届けられるかどうか。
その一連の流れが淀みなく循環すれば、少ない力で大きな力を生み出すことができます。
小さい筋肉に余分な負荷がかかりづらいため、怪我のリスクも最小限に抑えられるのです。
(ちなみに、足をゆっくり上げるタイプのピッチャーは、プロ入り後も身体能力の衰えと一緒にパフォーマンスが落ちていく傾向が高い。そして、怪我も多い)
20試合だけ活躍する選手、144試合安定して活躍する選手
プロは毎日試合があり、シーズンも長い。
2週間の大会で結果を出せても、144試合安定してパフォーマンスを発揮できるかどうかを、僕は見ています。
それには、筋肉の力でプレーしているのか、骨の上に乗っかってプレーしているのかで、大きな違いが出ます。
高校生の場合、驚異的な回復力と体力がありますから、ちょっと疲れていようが、ちょっとバランスが崩れていようが力で修正できてしまいます。
しかしそれは、大会が2週間で終わるからです。蓄積された疲労やずれは、20試合ほど連続して出続けた時に初めて身体症状として現れます。そこで、真の実力が出ると言っても良い。
見栄えが良くなるからと言って無駄に改造したり手を加えたりする車は燃費が悪いですね。
スピードもそこまで出ない。全てのパーツが美しく配列された車の方が燃費もパフォーマンスも高い。
それと同じです。おっ、予期せぬところでクルマに結びつきました。
さて、甲子園も佳境に入ってきていますね。ちょっと今までと違う視点で高校生のプレーを見てみると、面白いかもしれませんね。
高森 勇旗
1988年5月18日生まれ。2006年横浜ベイスターズに入団。背番号は62(2007-2012)。2013年から社会人野球のエスプライド鉄腕に加入。現在はスポーツライターとしても活躍中。『イキなクルマで』では月刊高森企画として元プロ野球選手だから語れる「プロ野球選手×車」についての様々なエピソードを連載していく。