「買う・乗る・語る」だけが車じゃない。高森勇旗だけが知っている助手席のエピソード

     
   

シリーズ月刊高森は、元横浜ベイスターズの高森勇旗氏がここでしか読めない野球×車のエピソードについて語る企画です。第2回の今回は、普段はなかなか注目されない助手席に関するエピソードです。

第1回:「プロ野球選手っぽくある」ことも意外と大変。元ベイスターズ高森 勇旗が語る野球×車 秘話

買う、乗る、語るだけが車じゃない。

助手席にもドラマはある!

と、いうことで、今回は、車の助手席に関するエピソードを2つご紹介します。

えっ、強引だって?そうです。強引なんです。

そういうの、好きなんです。

1つ目は、僕が助手席に乗っていたときの話。2つ目は、僕の運転する助手席に乗っていた人の話です。

ベンツに一目惚れした時の話

まずは、1つ目ですね。僕が「メルセデス好き」という話は前回ご紹介させていただいた通りですが、そもそも僕がメルセデスを知ったのは、高校3年生の頃でした。

母校である岐阜の中京高校の近くを、メルセデスGクラスが走って行ったんですね。


Photo By Wikipedia※画像はイメージです

それを見て、

「なんだ、あの車は!?」

と、なったわけです。Gクラス特有の角が立ったフォルム、見るからに硬そうなサスペンションが、当時高校生だった僕の好奇心を振り切らせました。

そこからベンツが好きになり、車に関する知識が増えていったんですね。

ハマの番長、三浦さんの運転するベンツの助手席に乗った時の話

プロ野球選手でもベンツに乗っている人はたくさんいますが、僕が入団した時に一番衝撃だったのが、ハマの番長、三浦さんのベンツです。


Photo By Wikipedia※画像はイメージです

ベンツの中でも最高峰の1つ、S65AMGのエンジン音を轟かせながら球場に入ってくる三浦さんがカッコよくてカッコよくて…

当時19歳だった僕は、

「三浦さん、僕、ベンツ大好きなんです。今度、隣に乗せてください!」

と、厚かましくもリクエストしたところ、

「おぉ、全然いいよ。運転する?」と、快諾。

さすがに運転は当時ペーパードライバーだった僕にはハードルが高く断念しましたが、とにかく三浦さんのベンツに乗れるかもしれないところまで行きました。

「ちょっと、水、切りてえんだ。」

月日は流れ、夏のある日。三浦さんは1軍でバリバリ投げていましたが、この日は調整で2軍の球場で練習をしていました。

練習を終えて僕は寮の自分の部屋で休んでいたのですが、そこへ黒羽根(利規=背番号9)さんが部屋に入ってきたんですね。

「高森、番長が呼んでるよ。」

ビックリして部屋を飛び出した僕は、一目散に三浦さんの元へ。
三浦さんは愛車を洗車しているところでした。

「お、ドライブに行こうか。ちょっと、水、切りてえんだ。

カッコよすぎる…
ドライブに連れて行ってくれる約束を覚えてくれていたことも、ドライブにいく動機も、「水、切りてえんだ」なんて、なかなか言えない。

なんてロックなんだ!さすが番長!決まってるぜリーゼント

と思いつつも、ジャージじゃ失礼だと思った僕は、すぐに部屋に戻り、私服に着替えて、三浦さんの車に乗り込みました。
緊張していてどんな会話をしたかはあまり覚えていませんが、車の性能に関してはよく覚えています。

メルセデスとは「演出力」である。


Photo By Cedric Ramirez※画像はイメージです

V12エンジンの鼓動が内臓に響き、深く沈み込んだシートに体を預ければ、革張りの内装が空間ごと高級な移動空間を演出。轟き渡る重低音は、車の内部では心地よいサウンドに変わり、「ベンツに乗っている」という自尊心を高めてくれるようでした。

メルセデスとは、演出力だ、とふと思う。

圧倒的な演出力、美意識。メルセデスを構成しているすべてが五感に働きかけてきます。この車が世界中でブランディングを強固なものにしている理由がよく分かりました。

重厚感のある見た目を裏切らない安定した走り。しかし、一度アクセルを踏み込むと、V12ツインターボエンジンが唸りを上げる。1オクターブ高くなった音とともに、風を切り裂いて進む。重心はあくまで低く、路面を確実に掴む足回りがドライバーに安心感を与える。この辺りはまさにメルセデスの真骨頂。

なんて酔いしれている間にドライブは終了。水も綺麗に切れ、夢のような時間は終わりました。三浦さんとの時間も、憧れの車内と走行性能のレポートも、脳に入ってくる情報量が非常に多い、最高に痺れる時間でしたとさ。

僕の助手席に降り立った広島の「神」の話

続いて2つ目。今度は僕の運転する車の助手席の話です。

2011年1月、プロ5年目の自主トレの話です。僕は石井琢朗さん(広島東洋カープ1軍内野守備走塁コーチ)と共に伊豆でトレーニングをしていたのですが、この年は広島の「神」、前田智徳さんも来ていたんですね。

自主トレ期間も1週間半ほど経った頃でしょうか、全員で食事に出かけたんです。その帰り道、車何台かに分かれて帰ろうとなったのですが、僕の車に乗るのが前田さんになったんです。

それはそれは緊張しました。あの前田智徳が、自分の運転する車の助手席に乗るなんて、想像しただけでもゾワゾワしますね。

緊張してウインカーとワイパーを間違えたりしましたが、幸い前田さんには気付かれないまま、運転をしていました。

広島の「神」の野球の美学

2人きりの車内で最初に口を開いたのは前田さん。

ええか、備えだぞ。

いきなり、前田さんが野球の話を始めたんです。

それまで、前田さんに野球の話を聞けるチャンスなんてないと思っていろいろ質問してきたのですが、「ええけぇ、ええけぇ」と言って、全然聞いてくれなかったのに、いきなり野球の話が始まりました。

「試合が続くと、体が動かんくなってくるじゃろう。そこを技術で乗り切るんか、体力で乗り切るんかゆうんが、俺の美学なんよ」

前田の美学」なんて、「国宝」並みに貴重な情報、そう聞けるもんじゃない。脳内に一字一句逃さずに書き込みました。

その他にも、前田さんの1日のタイムスケジュールや、打席で何を考えるかなど、僕の質問にも全て答えてくれるなど、それはそれは贅沢な車内でした。

普段言えないようなことも、車の中だと言える。

やっぱり、車は素晴らしいですね!

え、終わらせ方が強引だって?

そ、そういうの好きなんです。


高森 勇旗
1988年5月18日生まれ。2006年横浜ベイスターズに入団。背番号は62(2007-2012)。2013年から社会人野球のエスプライド鉄腕に加入。現在はスポーツライターとしても活躍中。『イキなクルマで』では月刊高森企画として元プロ野球選手だから語れる「プロ野球選手×車」についての様々なエピソードを連載していく。

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