「電気自動車の新しいカタチ」というキャッチコピーで登場したのが、日産・ノート e-Powerです。11月の新車乗用車販売台数ランキング(日本自動車販売協会連合会発表、軽乗用車は除く)で、前年同月比2.4倍となる15,784台を記録してトップに躍り出ました。日産車が車種別販売ランキングでトップになるのは、1986年9月の6代目サニー以来30年ぶりのこと。その人気を牽引しているのがe-Powerで、事実11月末現在でのノートの販売はこのe-Powerが8割弱を占めており、いかにユーザーがこのようなクルマを待っていたかが伺えます。そのe-Power、果たしてどんなクルマなのでしょうか。
ノートって、そもそもどんなクルマ?
ノートとは日産自動車が製造・販売するハッチバック型の小型乗用車で、日産の世界戦略車として位置づけられています。初代モデルはスカイラインをデザインしたチームが線を引き、2005年から日本で発売されました。他の1.5リッタークラスよりも比較的価格が抑えられていたことから人気に火が付き、日産を代表するコンパクトカーとなりました。また、2008年には1.6リッターモデルも追加されています。
現行型となる2代目は、2012年より発売が開始。日本の自動車メーカーとしては初めて女性が開発責任者として腕を奮ったモデルということで、話題になりました。そしてこのモデルからはさらにグローバル化が進み、日本だけでなくメキシコやイギリスでも生産されることになりました。毎年のようにきめ細やかなマイナーチェンジが行われ、2016年に追加されたニューモデルの目玉がe-Powerというわけです。
ノートe-Powerは、本当に電気自動車なのか?
「電気自動車」とCMでは謳っているのに、どうしてエンジンがあるの?とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんね。それはこのクルマが同社のリーフのようなピュアEV(電気自動車)ではなく、厳密にはハイブリッド車(HEV)にカテゴライズされるからです。HEVにもさまざまな種類がありますが、ノートe-Powerの場合は「シリーズ式」と呼ばれるタイプを採用しています。このシリーズ式HEVは自動車用としては後発ですが、鉄道用のディーゼル機関車にも応用例があるなど、ハイブリッドとしてはもっとも歴史がある構成となっています。近年、トランスミッションがあるゆえにシステム効率を上げられないパラレル方式の弱点を克服するためのものとして注目されており、発電と駆動の役割が切り離されてエンジンは専ら発電機として機能。ここで発電された電気がバッテリーに蓄えられて、モーターを駆動するのです。確かに駆動は電気なので電気自動車といえなくもないですが「発電所を持った電気自動車」と意訳するほうが適当かもしれませんね。
シリーズHEVは、ピュアEVの繋ぎになるか?
日産ではピュアEVであるリーフの開発時点から、後続距離や充電インフラといった問題がネックになることを認識していたといいます。そしてノートにシリーズHEVを搭載することを決定したのは2014年のこと。この8年くらいの間に、コスト的にも十分にクリアできる算段がつく程度にテクノロジーが進歩したということでしょう。
ピュアEVのもうひとつの問題は、価格です。モーターもそうですが、やはりバッテリーにかかるコストがとても大きく、簡単に大型化もできないという壁があります。そして、バッテリーのエネルギー密度がまだ小さいという技術的なハンデも抱えています。このことから、ピュアEVの普及にはまだまだ時間がかかりそうなため、その繋ぎ役としてシリーズHEVが登場したというのは実に大きな意味があります。主流とまではいかないかもしれませんが、確実にピュアEVが熟成するまでの繋ぎの役目は果たすことでしょう。
実際に乗ってみると、どんな感じ?
そんなノートe-POWERですが、筆者も実際に乗ってきましたのでレポートしたいと思います。まずエクステリアですが、ぱっと見は普通のノートとさほど変わりはありません。しかしフロントグリルに入ったブルーの差し色が、e-Powerであることを示しています。インテリアは、普通のノートにリーフが混ざった感触といえばいいでしょうか。事実、シフトセレクターなどは近未来的なリーフのものを流用しているとのこと。
では、肝心の走りはどうでしょうか。当然その走りはEVそのもので、低速からモーターならではの力強い特性を示しており、とても扱いやすく仕上がっています。ドライブモードを調整すれば、右足一本のアクセルコントロールのみでクルマを自在に動かすことも可能です。これはとても新しい感覚で、これに慣れてしまうと他のクルマには乗れなくなるくらい快適な操作感です。ただ、時折かかるエンジンの音が非常に気になります。上級グレードのメダリスト系になると遮音対策がかなりなされているとのことですが、このノイズで「電気自動車感」は一気に薄れてしまいます。ただそれ以外のウィークポイントは何ら見つからず「クルマもついに、ここまできたか…」と思い、売れている理由が納得できました。
これこそ「低燃費系でビュンビュン系」!
リーフのようなピュアEVこそがゼロエミッションで正義だ、という考えに筆者は大いに疑問を感じています。なぜなら、「そもそも、発電する電気はどこから来ているのか?」ということを考えなければならないからです。現状、エネルギーソースに化石燃料などを使用して発電している限り、まだまだピュアEVの出る幕はないでしょう。その点、このノートe-Powerはトータルで考えるとCO2排出量も少なく、今の時代にはもってこいといえるでしょう。充電も不要で燃費も優れ、快適に運転できることを考えると、これこそが現代の自動車の新しいスタンダードになるべきではないかと思うのです。フットワークも素晴らしく軽やかで、まさに先代ノートが謳っていた「低燃費系でビュンビュン系」を地で行くクルマでした。