現代のクルマ社会において、なくてはならない存在となったミニバン。そのきっかけを作ったクルマとして真っ先に挙がるのが、ホンダ・オデッセイではないでしょうか。ここではオデッセイの歴史を振り返りながら、つい先日アメリカで発表されたばかりの新型についても触れていきます。ミニバン文化を世界に浸透させたこのオデッセイ、一体どんなクルマなのでしょうか。詳しく迫ってみましょう。
厳しい台所事情から生まれた初代
RVブーム全盛期の1990年代、各自動車メーカーは競うようにクロカン四駆やワゴンの新車種を発表していました。しかし当時のホンダはセダンやクーペなどを中心に販売しており、このブームに完全に乗り遅れてしまいます。テコ入れとして、いすゞやランドローバーのOEM車、ジープ・チェロキーなどを販売していましたが、知名度が低く販売は振るわず。苦境に立たされます。
そんな中、起死回生の1台として1994年に誕生したのが初代オデッセイでした。生産する製作所の事情に合わせて全高を低くするなどし、乗用車ライクに仕立てられていたのが当時のミニバンとは最も異なる部分となります。こうした苦しい中生み出されたオデッセイは、メーカーの予想をはるかに上回るヒットを記録。ホンダ復活の起爆剤となりました。
キープコンセプトながら、よりスポーティな2代目
photo by NZ Car Freak(CC 表示-継承 4.0)
初代が好評だったことを受け、日本仕様の2代目はそのコンセプトをキープする方向に舵が取られました。1999年、オデッセイは初のフルモデルチェンジを受けます。エンジンは、先代の後期型から搭載されている2.3リッター直4と3リッターV6を継続して採用。スポーティな味付けのシャシーとマッチし、ミニバンらしからぬ高い走りの性能を獲得しました。さらに2001年に行われたマイナーチェンジでは、新グレード「アブソルート」が登場。さらに走行性能が磨き抜かれ「スポーツカーを超えた次元の走り」とジャーナリストなどから絶賛されました。
多くのユーザーに受け入れられた3代目
photo by Two hundred percent.(CC 表示-継承 3.0)
そんな2代目ですが、初代ほどのヒット作とはなりませんでした。方針転換を図るべく2003年に登場した3代目は、大きくプロポーションの変更が行われます。低床・低重心というコンセプトを具体化すべく、全高が1550mmと他社のミニバンと比べかなり抑えられたものになりました。この低めのデザインが、これまでミニバンに拒否反応を示していたスポーツ系ユーザーの心を掴むことに成功し、人気車種へと返り咲く要因となったのです。
低床・低重心を受け継いだ4代目
人気を取り戻した3代目の流れを受け継ぎ、4代目も低床・低重心コンセプトを貫きます。走りの性能は専門家も舌を巻くほどさらにレベルが上がり、室内のユーティリティも向上。燃費も改善され、パワーアップも実現しました。クルマとしてのレベルは飛躍的に上がりましたが、ライバルと比較して室内空間が若干狭かったことやリーマンショックなどの影響もあり、販売は低迷。そのコンセプトをうまく訴求することが出来ないまま、モデルライフを終えます。
ミニバンらしい進化を果たした5代目
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2013年に5代目へと生まれ変わったオデッセイ。これまでの低く構えたスタイリングを改め、ミニバンらしいスタイリングになりました。しかし低床コンセプトは守り抜き、高いハンドリング性能は持ち味として残っています。スライドドア、8人乗りの採用など、これまでのオデッセイの概念を大きく塗り替えるエポックメイキングなモデルといえるでしょう。
2016年には待望のハイブリッド車が登場し、ライバルと比肩する走行性能、燃費性能を獲得。日本国内でのホンダ最高峰ミニバンとして君臨しているのです。
独自の進化を遂げた、北米仕様
photo by Two hundred percent.(CC 表示-継承 3.0)
ここまでは、国内仕様のオデッセイについて見ていきました。初代は北米でも販売されていましたが、性能的には市場にマッチしているとはいい難く、日本ほどのヒットは飛ばせませんでした。そこで北米仕様は、2代目以降独自の進化をしていくことになります。
北米仕様2代目は、日本でも「ラグレイト」として販売されていました。3代目は主に安全面を強化。2008、2009年と北米ベストセラーミニバンの座を獲得しています。そして現行型となる4代目は2010年にデビュー。すべてアメリカで開発され、道路事情やアメリカ人のクルマの使い方やライフスタイルを徹底的に研究されたモデルとなっているのが特徴です。こちらも登場以来、ベストセラーの座を守り続けています。
そして2017年、デトロイト
世界5大モーターショーに数えられる、北米国際オートショー(NAIAS)。ここでホンダは、5代目となる北米仕様オデッセイを発表してきました。スタイリングは、4代目のコンセプトをさらにブラッシュアップさせたものになっており、迫力とクリーンさが見事に融合している印象です。駆動系は3.5リッターV6エンジンに独自開発の10速オートマチックを組み合わせ、最高出力は4代目と比べ32馬力アップの280馬力を発生します。
4代目は車内に掃除機を装備するなどユーティリティも非常に凝ったものになっていましたが、今回も2列目シート中央が取り外し可能で左右の座席をスライドできるようにするなど、さらに使い勝手が向上しているのがポイントです。さらにマイクやスピーカー、赤外線カメラなどを用いて離れて座る乗員同士が会話できる機能を備えるなど、いかにもアメリカらしい装備も用意されます。
もうひとつトピックを挙げるとするならば、安全装備「ホンダセンシング」の採用でしょう。主要グレードに標準で装備され、危険回避性能が上がったことは消費者にとって積極的にこのクルマを選ぶ理由が増えそうです。早くも人気の予感がしますね。
発売は今春からの予定で、この北米仕様はすべてアラバマ工場で生産されます。
冒険旅行は続く、どこまでも
ピンチから生まれたクルマは、今では多くの人に愛されるものへとなっていきました。ホンダには昔から「人間尊重」という言葉があります。どんな時でも、まず人を中心に考える。仕向け地ごとに、ちょうどいいサイズで適正価格のクルマを提供する。その思いがあったからこそ、オデッセイというクルマは生まれてきたのかもしれません。NAIASで発表されたばかりの北米仕様の新型も、北米ユーザーのハートをしっかりと掴むことでしょう。
今年、誕生から23年を迎えるオデッセイ。オデッセイとは「冒険旅行」を意味しますが、これからも名前の通り乗る人の夢がふくらむような、ホンダらしいクルマであってほしいものですね。
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