1989年に登場した、レクサス・LS。メイン市場となった北米はもとより、メルセデスやBMWなど高級車メーカーを多く抱える本場欧州でも驚きを持って迎え入れられたクルマとして歴史に名を刻んでいます。ここではそのレクサス・LSの足跡を振り返るとともに、先月の北米オートショー(NAIAS)で発表された新型となる5代目にも詳しく迫っていきます。
高級車市場を変えた レクサス ・ LS とは?
1980年代までの北米の高級車市場といえば、重厚で威厳を放つクルマこそが頂点に君臨し、「アメリカンドリーム」の象徴とされていました。しかし故障の多さや燃費の悪さなどから不満を募らせたユーザーも少なくはなく、トヨタはそれを市場調査で掴んでいました。
この市場調査の結果から高級車市場に参入する余地があると判断したトヨタは、1989年に新ブランド「レクサス」を立ち上げます。そこで発売された最高級車が、初代LSだったのです。
世界を震撼させた初代モデル
約5年という長い開発期間をかけて北海道・士別に建設された新テストコースにて入念な調整が行われ、いよいよ1989年に初代モデルは登場しました。当時のトヨタ自動車会長である豊田英二氏の「想像を超えた高級車をつくりたい」という言葉から開発がスタート。トヨタの持てる技術を総結集して誕生したそのクルマは、高級車の本場である欧州のメルセデスやBMWなどよりも安価ながら圧倒的な静粛性と品質の高さを誇っており「レクサス・ショック」という言葉を生み出します。特にメルセデスはこのクルマの登場以降クルマづくりを根幹から見直したという話も残っており、本場の高級車を震撼させたモデルといってもいいでしょう。
進化を求めず、深化を究めた2代目
バブル景気崩壊後の円高の過熱で初代モデルは値上げを余儀なくされ、次第に競争力を失っていきました。そこで1994年に投入されたのが、2代目モデルです。エクステリアなどはパッと見ただけでは初代モデルとほとんど変わりませんが、プラットフォームの新規設計を行ったことにより後席の居住性が大幅に向上。またオーバーハングを切り詰めることにより、最小回転半径を縮小することにも成功しました。エンジンは初代と変わらず、4リッターV8の1UZ-FE型を継続して採用。しかし部品を見直すことにより、わずかながら出力がアップ(約5馬力)しています。しかしもっとも効果が大きかったのは、車両重量の軽量化でしょう。マイナス110kgという大幅なダイエットに成功し、運動性能の向上に貢献。テクノロジー面など目に見えた「進化」はありませんでしたが、地道な「深化」を果たしたモデルといえます。
現在の流れをつくった3代目モデル
2000年に登場した3代目は、排気量が4.3リッターに拡大。最新の電子制御技術も多数投入されました。またデザインも大きく変わり、曲面を多用した優雅なものへと進化を果たします。これにより空力性能が大幅に改善、高級車としてはトップクラスのCd値=0.25を実現しました。インテリアデザインはリッツ・カールトンなど有名ホテルの客室を、シートはブリティッシュ・エアウェイズと日本航空のファーストクラス用シートを参考にしたといわれています。そしてカーオーディオには、アメリカの名門であるマークレビンソン製のものがオプション設定されるなど、現在のレクサスのオーディオの流れをつくります。
2003年、トヨタはレクサスブランドを日本にも展開することを発表。日本向けLSの名称であった「セルシオ」は、2006年をもって終止符が打たれました。
ロングセラーモデルとなった4代目モデル
2005年の東京モーターショーにて、レクサスは「LF-Sh」というコンセプトモデルを発表。これを2006年に市販化したのが、4代目LSです。エンジンは17年ぶりに刷新された、1UR-FSE型4.6リッターV8エンジンを搭載。これに組み合わされるトランスミッションは「8 Super ECT」と呼ばれるもので、これは量産乗用車としては世界初採用となる8速オートマチックでした。その後2007年にはハイブリッド車LS600h、ロングホイールベース仕様のハイブリッド車LS600hLを追加。現在も続く、レクサスのハイブリッド戦略の足掛かりをつくることになります。
2012年にはマイナーチェンジ(レクサスはメジャーチェンジと呼称)が行われ、主要構成部品の6,000点のうち約半数を変更しました。特に外装は大幅に手が加えられ、レクサスのデザインフィロソフィである「スピンドルグリル」を採用。現代風にアップデートがなされました。その後も毎年のようにきめ細やかな年次改良が行われ、レクサスの最高級車として輝きを放ち続けています。
そして2017年、NAIASにて―
そして2017年1月、レクサスはNAIASにて5代目となる新型LSを発表しました。プラットフォームには今年発売予定のLCより導入される新開発の「GA-L」をしており、高い剛性と深い乗り味を実現しています。またこの新プラットフォームによりデザインの自由度が上がったため、一般的な4ドアセダンと差別化すべく6ライトキャビンとなっているのも特徴です。
動力性能も飛躍的に向上され、新開発の3.5リッターV6直噴ツインターボと10速オートマチックの組み合わせで、フラットなトルクを活かした爽快な加速フィーリングと切れ味の良い変速を可能にしています。シャシー制御の技術も進歩しており、質感の高い乗り心地と優れたステアリングレスポンスを提供してくれるのは想像に難くありません。また、もっとも期待されるのは「LEXUS CoDRIVE」と呼ばれる高度運転支援技術でしょう。これは全走者追従機能付きクルーズコントロールの発展版で、ドライバーの意図と協調した操舵制御やウィンカー操作によって作動する車線変更支援システムなどの新機能が盛り込まれています。
日本人の国民性が深く息づいたクルマ
圧倒的な静粛性と快適性、そして徹底した高品質から多くのユーザーに受け入れられたレクサス・LS。それは勤勉で真面目な、日本人の国民性を映し出したようなクルマといっても過言ではありません。そのような国民性から生まれた「おもてなしの心」を持ったクルマは世界中を席巻し、クルマづくりを大きく変えるまでに至りました。そして2017年、新たな高級車の歴史をつくるべく発表された新型LS。実際の走りは、静粛性は、内装の出来はどうなのか、今から実に楽しみで興味深いですね。