昨年の発売延期を経て、今年2月15日より発売が開始されたトヨタ・プリウスPHVが、12月11日(月)に発表された日本カー・オブ・ザ・イヤー2017-2018にてイノベーション部門賞を受賞しました。トヨタが満を持して市場に送り込み、PHVのメリットを最大限に実現。さらにソーラー充電の本格的な実用化なども先進的であると判断され、見事栄誉を受けました。
今回は改めてプリウスPHVの歩んできた道を振り返りながら、普通のプリウスとはどう違うのかなど、プリウスPHVの魅力を主にメカニズム的な観点から探っていきます。試乗や購入の前に、ぜひ一度本文を参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
そもそもPHVとはどんなクルマなのか?
PHVとはプラグイン・ハイブリッド車のことを指し、外部充電装置を持ったHEV(ハイブリッド車)ということができます(一般的にプラグイン・ハイブリッド車は「PHEV」という略称が用いられていますので、ここからは実際の車名以外ではそのように表記します)。エンジニアリング的には「モーターだけで走行できるHEV」と定義され、HEV以上BEV(電気自動車)未満というのがPHEVの立ち位置となります。PHEVは欧州などで採用されている燃費測定法「ECE R101」において非常に有利な立場に置かれることから、昨今注目されているジャンルです。
プリウスPHVの歩み
初代プリウスPHVは先代プリウスをベースとし、2009年に登場。まずは官公庁や選定自治体、電力会社向けにリース販売を開始します。トヨタのハイブリッド車としては初のリチウムイオン電池を採用したクルマとなり、HEV仕様と比較して優れた燃費性能を実現。その後2012年に発売された一般向け販売仕様では、満充電状態でのEV走行距離は26.4km、PHEV燃費も61.0km/lを記録するなど、リース仕様よりもさらに性能が向上している点がトピックです。さらに2013年に行われた変更ではLSW(レーザー溶接)の採用によりボディ剛性が強化され、乗り心地や操縦安定性の向上が図られます。その後も細かな改良が加えられ、2016年12月まで販売されていました。
2017年、新型プリウスPHV発進
2015年にHEV版のプリウスが新型にフルモデルチェンジしたことで、PHEV仕様のプリウスも発売が待たれていました。2016年中に発売という話もありましたが発売延期もあり、実際には2017年からの発売となりました。なぜ発売が延期されたのかは後述します。
日本カー・オブ・ザ・イヤー2017-2018の部門賞を獲得!
そして、2017年12月11日(金)、プリウスPHVは日本カー・オブ・ザ・イヤー2017-2018において、『環境、安全その他の革新技術を持つクルマ』に与えられるイノベーション部門賞を獲得しました。
多くのメーカーのPHVが1つのモーターであるのに対し、プリウスPHVは2モーターを採用。それによってより優れた低燃費を実現した他、ソーラー充電の本格的な実用化も評価され、今回の受賞に至りました。
次のページからはこのプリウスPHVの進化点や最先端技術について詳しく見ていくことにしましょう。
プリウスと違う顔つきには、ちゃんとした理由があった!
まず正面からクルマを見ると、HEV版のプリウスとは明らかに顔つきが違うことがわかります。ボンネット、フェンダー、ヘッドライト、バンパーは専用品に変更され、ヘッドライトは同社のFCV(燃料電池車)であるMIRAIの内部ユニットを流用しています。2.2mm間隔で一列に並べた16個のLEDを単眼カメラの情報をもとにチップごとに点灯制御を行い、前方車、対向車、歩行者などの部分だけを減光する「ハイビーム配光」を新たに採用。先進性をアピールしています。デザインにも理由があり、HEV版プリウスとMIRAIの間の車種ということで明確な差別化が求められていたということです。
発売が遅れた理由は、テールゲートだった?
見た目の違いは、リアセクションにもあらわれています。「ダブルバブルウインドゥ」と名付けられたテールゲートガラスは3次曲面が描かれており、ふたつのふくらみを持つ形状になっているのが特徴です。後方に空気をきれいに整流する役目を持っており、プリウスPHVのもうひとつのデザインアイコンとなっています。このガラスを収めるテールゲートはCFRP(炭素繊維強化樹脂)製となっており、成型には量産性に優れたSMC製法(繊維に樹脂を含侵させたものをフィルムで挟み込み、その後シート状にしてプレスで加熱・加圧する作り方)を採用。重量増を抑えるとともに、クルマの重量バランスの最適化に貢献しています。かつてレクサス・LFAでも採用されたこの製法ですが、プリウスPHVの量産段階では品質が安定しなかったことから発売が遅れてしまう原因のひとつとなりました。もちろん市販版では、安定した品質が保証されています。
最大の訴求力となるディスプレイとシート
インテリアを見てみると、11.6インチの縦置き大型ディスプレイが備わるインパネがひときわ目を引きます。進路遠方を表示できる縦型モニターは通常ヘッドアップ設定でナビを利用することが多いユーザーにとって、大変使いやすいアイテムといえるでしょう。これにより2画面表示が可能となり、ナビ画面を表示しながらほかの機能の操作もできるようになりました。操作もタブレット感覚で、扱いやすさを追求しています。
またシートにも工夫が凝らされており、ポリエステルの中にフィルム状のヤーン(糸)を混ぜて編み込むことで生地の光沢感を出し、エンボス加工によって表面に凹凸をつけたものが使われています。これらの装備により上質感が演出され、HEV版のプリウスとはまた違う雰囲気を出すことに成功。プリウスPHVの強い商品力となります。
バッテリー充電も行えるソーラーパネル
もうひとつの強い商品力は、バッテリー充電も行えるソーラーパネルです。これまでにもルーフにソーラーパネルを装備したクルマはありましたが、駐車中に室内のファンを回す程度にしか使うことはできていませんでした。プリウスPHVではルーフで発電したエネルギーをソーラーバッテリーに蓄電し、その量が一定に達したときに駆動用バッテリーに送られます。通常ソーラーパネルは特性上一部でも影に隠れてしまうと発電量がゼロになってしまいますが、プリウスPHVのソーラーパネルでは影になったパネルを切り離して充電が続行できるよう内部に工夫が凝らされているところが大きな違いです。ソーラー充電によるEV走行距離は、平均2.9km/日、最大6.1km/日(充電量のJC08電費換算)となっています。
パワートレインは大きく異なり、さらなる高効率化を実現
エンジンは、HEV版プリウスと共通の2ZR-FXEを搭載。型式こそ同じですがプリウスPHVはエンジンブロックまで手が入れられており、最大熱効率40%を実現しています。これにより燃費も改善され、37.2km/lという好燃費を達成。トップレベルの性能を誇ります。
HEV版プリウスとの最大の違いはモーターの使い方で、加速時には駆動用モーターに加え発電用モーターも駆動力として用いるので力強い走りを得ることが可能です。
バッテリーは先代プリウスPHVと比較して質量は1.5倍で容量は2倍となっていて、EV走行距離は先代の26.4kmから68.2kmへと格段に向上。日々の生活の範囲は、ほぼEVでまかなえるようになった点はとても大きいといえるでしょう。
326万1千円から手に入る「未来への一歩」
このように他社のHEVはもちろんのこと、HEV版プリウスとも大きく違うプリウスPHV。PHEVの新たなカタチとして、自動車史にも残るエポックメイキングなモデルになることでしょう。また「HEVに続く次世代エコカーの柱として、FCVにバトンを渡していくという位置づけ」とトヨタが語るように、戦略的な価格であることも見逃せない要素です。トヨタの今後の次世代車攻勢を占う大きな試金石として、果たしてプリウスPHVは市民権を得ることになるのか。販売動向が注目されるところですね。