モータースポーツを観てみよう!初心者向けに難しいルールや用語を解説

     
   

野球やサッカーなどのスポーツに比べ、日本では一般的にマイナージャンルとされているのがモータースポーツです。自動車同士の競争だということはわかっていても、その魅力がいまいち伝わってこない、わからないという方もたくさんいます。今回は「フォーミュラ系」「プロトタイプ系」「ツーリングカー系」と3タイプの競技形態のルールや用語などを詳しく解説。初心者の方もこれを読めば、より面白く観戦できること間違いなしです。

フォーミュラ系

フォーミュラ系を代表するものといえば、やはりF1をおいてほかにないでしょう。F1の見どころといえば、何といってもそのスピードです。同じオープンホイールタイプ(タイヤがむき出しになっているレーシングカー)のインディカーに比べれば最高速は若干劣りますが、超高速域での息を呑むバトルが至るところで繰り広げられています。そして、最新技術の粋を集めた専用のマシンたち。限られたレギュレーション(ルール)の中でエンジニアたちが知恵を絞って開発されたマシンは、見ているだけでも美しく感じられます。

自動車レースの最高峰、F1

photo by Ryan Bayona

F1とはフォーミュラ・ワンの略で、四輪レースの中では世界最高峰のレーシングカテゴリーです。フォーミュラとは「規定」「決まり」などを意味し、FIA(国際自動車連盟)が定めるクラスにはF1以外にもF2(2017年、これまでのGP2から改称)、F3やF4が存在しており、これらはF1を頂点とするピラミッドを形成しています。1950年にイギリス・シルバーストンで始まり、世界中を転戦して各レース結果で与えられるポイントを総計してその年の勝者「ワールドチャンピオン」を決定するのです。

人の叡智の結晶であるF1マシン

photo by Lennart Coopmans(CC 表示-継承 2.5)

F1に出場するマシンは、参戦するコンストラクター(チーム)がテクニカルレギュレーション(技術的規則)にもとづいて独自に開発したマシンによって行われます。エンジンはパワーユニットと呼ばれ、現在は1.6リッターV6ターボエンジンに加えてERSというハイブリッドシステムが組み合わされたものが搭載されています。このERSはMGU-HとMGU-Kから構成されており、前者はエンジンの排気熱を電気エネルギーに変換、後者はブレーキング時の減速エネルギーを電気エネルギーに変換します。ここでつくられた電気エネルギーはバッテリーに蓄えられ、マシンの加速時にアシストを行います。

バトルの機会を増やすDRS

レッドブル・RB7のDRS (上)稼働中。 (下)通常時。(photo by Gil Abrantes

F1ではオーバーテイク(追い抜き)の機会を増やすため、DRSと呼ばれるシステムが導入されています。これは各サーキットで決められたDRS計測ポイントで、前方を走るマシンとのタイム差が1秒以内となった時に定められたDRSゾーンでDRSを可動させることができるというものです。DRSが稼働するとリアウイングがフラットになり空気抵抗が低減するため、スピードが増加。これにより、オーバーテイクの機会が増えます。

セーフティカーのルールが、今年から変更に

photo by Morio(CC 表示-継承 4.0)

レースのカギを握るのは、何もドライバー同士のバトルだけではありません。マシンがコース上でクラッシュして止まっている場合などに、二次クラッシュを避ける目的で導入されるセーフティカーも重要な役割を果たします。今年からこのセーフティカーに関するスポーティングレギュレーション(競技規則)が変更され、セーフティカーがピットインしたあとにマシンは全車グリッドに停止。その後シグナルの合図によりスタンディングスタートを行って、レースが再開となります。これは観客にとってよりエキサイティングなレースが見られることから、評価が高いようです。

ヘルメットのデザイン変更はシーズン中1回まで

アイルトン・セナのヘルメット(photo by マクラーレンMP4/4・ホンダ)

ちょっと変わったレギュレーションですが、このようなこともきちんと定められているのがF1の特徴です。母国レースを迎えるドライバーなどは、その時だけのオリジナルデザインのヘルメットを用意する場合があります。このレギュレーションはそのことを考慮したもので、年間1回だけデザインの変更を認めています。ちなみに2016年はデザイン変更が一切認められていませんでしたので「規制緩和」といえるでしょう。

プロトタイプ系

プロトタイプ系のモータースポーツを代表するものとして、WEC(FIA 世界耐久選手権)が挙げられます。これはフランス西部自動車クラブ(ACO)が組織し、FIAの管理のもと行われる耐久レースの世界選手権のことをいいます。2010年よりACOが開催していたILMC(インターコンチネンタル・ル・マン・カップ)をさらに発展させたものと解釈され、1992年まで開催されていたSWC(スポーツカー世界選手権)の実質的後継にあたるレースです。基本的にレースは6時間の耐久(ル・マン24時間を除く)で行われます。

WECの車両規定

photo by FIA WEC

WECは自動車メーカーやメーカー直系のワークスチームなどが独自開発を認められている「LMP1」とプライベーターを対象とした「LMP2」、さらに入門カテゴリーである「LMP3」に分けられています。さらに市販スポーツカーベースの競技車両として「LM-GTE Pro」と「LM-GTE Am」が存在します。最高峰となるLMP1では、ハイブリッドカーを対象とする「LMP1-Hybrid」と、ハイブリッドカー以外の「LMP1 non Hybrid」というふうにさらに細かく分けることができます。いっぽうLM-GTEクラスはLM-GTE Proがプロドライバーを対象としたクラス、LM-GTE Amクラスがアマチュアレーサーを対象としたクラスです。なおLMPマシンとGTマシンはヘッドライトの色でも判別ができ、LMPマシンは白色でGTマシンは黄色となります。

予選アタックを務めたドライバーがスタートを担当

photo by Toyota Gazoo Racing

LMP2やLM-GTE Amのカテゴリーでは、予選でベストタイムを記録したドライバーがスタートドライバーを務めるということがレギュレーションによって定められています。LMP1やLM-GTE Proの場合は少し異なり、主催者が行う書類検査の際にスタートを行うドライバーの氏名を決められた書式の書類に記入することで宣言しなければなりません。変更が行えるのは予選終了後30分以内で、それ以降は認められないというのが特徴です。

ミニマム45分、マックス4時間半

photo by Toyota Gazoo Racing

タイトルだけでは「?」ですね。これは何かというと、ドライビングに関する規定です。WECは、もっとも短いレースでも6時間という長丁場で争われます。基本は3人のドライバーが交代で1台のマシンを走らせますが、LMP1やLM-GTE Proの場合は1名のドライバーはレース中に最短で45分以上は走らなければなりません。そして最長4時間30分以上の運転は禁止されています。なおLMP2やLM-GTE Amの場合は最小1時間15分、最長3時間30分と定められているのです。

室温を一定に保たなければならない

photo by Toyota Gazoo Racing

こちらはクローズドボディがメインとなる、いかにもWECらしいレギュレーションといえるでしょう。LMPマシン、LM-GTEマシンともに換気や空調システムの装備が義務付けられています。ドライバー周辺の温度は、たとえば外気温が25度以下の場合は走行中は最高32度、外気温が32度を超える場合は外気温+7度以下でなければなりません。車両が停止してから8分以内にこれらの温度に下げる必要があります。

ツーリングカー系

最後にツーリングカー系の代表として、現在国内で最多の観客動員数を誇るSUPER GTを例に取って見てみましょう。SUPER GTは1993年に開催された「全日本GT選手権レース」を祖とするレースで、国内外のGTマシンを一堂に集めて速いクルマを決めるものです。主催者と第三者機関による巧みな車両ごとの性能調整(通称「BoP」)からマシンの性能はほぼイコールコンディションが保たれ、基本的にはどのマシンにも勝てるチャンスが均等に与えられているのがこのレース最大の魅力といえるでしょう。近年は、海外の他カテゴリーのドライバーからの注目も高くなってきています。

これで簡単、SUPER GTのクラス分け

photo by 本田技研工業株式会社

SUPER GTはマシンのパワー別に、大きく分けて2つのクラスがあります。最高峰となるGT500はこのレースの最高峰クラスで、国内の有力自動車メーカーであるホンダ、トヨタ(レクサス)、日産が参戦しています。いっぽうGT300クラスはおもにプライベーターがベースとなったチームが多く参戦。このGT300クラスには日本独自の規定で製作されたJAF-GT車輛と世界的にGTマシンのスタンダードであるFIA-GT3車輛の参加が認められています。GT500マシンとGT300クラスのマシンの判別方法は、いたって簡単。GT500クラスはヘッドライト、ゼッケン、ハチマキ(フロントガラス上部に貼られる帯状のステッカー)の色が白色で、GT300クラスの場合はこれらが黄色になります。

近年では珍しく「タイヤ戦争」が繰り広げられるレース

photo by ミシュラン

近年のフォーミュラやプロトタイプ、ツーリングカーレースでは主催者があらかじめ装着タイヤメーカーを1社に絞り込む「ワンメイク」のレースが主流となっていますが、SUPER GTの場合は「マルチメイク」と呼ばれ、さまざまなタイヤメーカーが参戦しているのも大きな特徴です。ブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップ…同じマシンでもタイヤのメイクス(製造業者)によって特性が大きく変わる場合が多いので、観る側にとってもタイヤを開発する側にとっても奥の深いレースとなっています。

よく聞く「マザーシャシー」って、何?

SUPER GTのレースをテレビで観ていると「このコースは、マザーシャシーが有利ですからね。今日はFIA-GT3勢にひと泡吹かせるかもしれませんよ……」などという解説を耳にするかと思います。このマザーシャシーとはFIA-GT3車輛の増加やJAF-GT車輛の減少から生まれた、日本独自規格の新しいGT300クラス用シャシー(車台)のことです。国内チームのエントラント増や国産部品の活用、チューニング技術などの継承を目的に製作されました。CFRP(炭素繊維)モノコックをメインに構成されており、ボディはチームが自前で製作して架装します。このためマシンはバラエティに富んでおり、トヨタ・86やマークX、ロータス・エヴォーラなどがこのマザーシャシーを用いて参戦しています。

勝負を分ける「ウェイト」と「燃リス」

SUPER GTでもっとも勝負の分かれ目となるのが、このウェイトハンディキャップ制度でしょう。チームは獲得したポイントに応じ、マシンにウェイト(錘)を搭載しなければなりません。このウェイトを積むことによりマシンの重量が増えるばかりか前後左右の重量バランスも変わってしまうため、マシンの性能は大幅に低下します。つまりシリーズを通してある特定のマシンが勝ち続けることが非常に困難になる(=他のマシンが勝つ機会が増える)のと同時に、接戦のレースが観られるというわけです。また、2017年からは燃料の流量を制限する「燃料リストリクター」が復活しました。こちらもマシンのパフォーマンスを制限するという意味では、ウェイトと同じ効果があります。

確かに言葉やルールは複雑だが、基本はシンプル

ここで挙げた以外にも、さまざまなルールや用語が飛び交う自動車レースの世界。そのすべてを覚えるのは、レース好きな人間にとっても途方もない作業になります。しかもそれらのルールは恒久的なものではなく、時代によって新しいものもいろいろと出てきます。ここが「モータースポーツは難しい」と思う理由かもしれません。しかし、よく考えてみてください。そもそもレースというものは、ゴールに一番早くたどり着いたものが勝ちなのです。プロセスでいろいろあっても、最後に行き着くところはみんな同じ。こんな簡単なルールはありません。まずはテレビやネットなどで、どんなカテゴリーでもいいのでレースを観てみてください。そして、応援するマシンやドライバーを決めてしまいましょう。あのマシンのカラーリングがカッコいいから、あのドライバーはイケメンだから…そんな理由でもまったく構いません。誰でも最初はそこから入るのです。ある程度観たら、今度は実際にサーキットに行ってみましょう。ここでしか味わえない熱気に、きっとあなたは夢中になるに違いありません。ぜひレースを楽しんで、モータースポーツファンの仲間入りを果たしちゃいましょう!

【関連項目】

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