ホンダのトップドライバーとして活躍する野尻智紀(のじりともき)さん。2016年7月17日、富士スピードウェイにて行われた2016全日本スーパーフォーミュラ選手権の第3戦決勝にも参戦するなど、いま大いに注目を集めるドライバーの一人です。
ファンへの想いやレースの魅力をお聞きした前回に引き続き、野尻さんの幼少期や愛車など、プライベートについて詳しくお話を伺ってきました!
内気な少年がレーシングドライバーに!そのきっかけは父親だった
――なぜ野尻さんはレーシングドライバーを目指したのでしょうか?影響を受けた映画やドラマ、実在のレーシングドライバーはいましたか?
モータースポーツを始めたきっかけについて言えば、そういうのはまったくないんです。小さいころにカートを始め、モータースポーツに自然と興味を持ち、暇さえあればF1の総集編を何回もビデオで観ていました。
――カートの世界に入ることを勧めたのは?
父親です。モータースポーツ関係者ではなく、ただクルマやバイクが好きな父です。セルシオの車高を低くして乗っていたのをよく覚えています(笑)。茨城の出身なので、たぶんそういうスタイルが当時は流行っていたのでしょうね。
僕は喘息を持っていて、運動がまったくできなかったんです。水泳をやっても「イヤだ」、柔道をやっても「強い人がいっぱいいるからイヤだ」って、どれも続かなくて(笑)。かけっこも遅く、とにかく運動が苦手でしたけど、父が連れて行ってくれたカートに初めて乗ったらすごく面白かった。今でもよく覚えています。
それがきっかけで、5歳でカートを始めました。その頃の記憶もありますよ。始めたばかりのキッズカートの後ろにひもをつけて、父親が暴走しないように引っ張っていてくれていて、「最初はここからここまで走って、ここでブレーキね」というように父がたくさん手伝ってくれました。
――お父様は、野尻さんが好きで続けられるものを見つけたかったのかもしれないですね。
父からは「とにかく何かをやらせたかった」と聞きました。僕は小さいころ本当に内気で、母親の陰にずっと隠れているようなタイプだったので。
――今はそんな風にはぜんぜん見えないですけど。
いや、本当は今でも人見知りです(笑)。さすがに取材には慣れましたけど、本当は人と話すのがとっても苦手な子どもだったんですよ。
そういう感じで育ったので、両親が心配して、健康のためにも何かやらせようと思ったらしいです。
――お父様は、ここまでカートを極めるとは思っていなかったでしょうね。
最近、さすがにやっと口出しをしなくなりましたね。ちょっと前までは、あーじゃねーかこーじゃねーかとか、いろいろと言われましたけど(笑)。
今は陰でこっそり応援してくれているみたいですよ。茨城から近いところで「ツインリンクもてぎ」などには観戦に来てくれます。コースサイドから見てくれて、家に帰ったら「あそこは残念だったな」なんていう話をするようになりましたね。
子どもへクルマの魅力を伝えるには「まず乗せてみる」
――子どもにクルマの楽しさを教えたい親世代は、興味を持ってもらうためにどんなことをすれば良いでしょう?
試しに乗せてみることですかね。今ならインターネットもありますし、いろんな方法を探せると思うんです。カートも、その子に興味を持って楽しんでもらえるかどうかが一番大きいですよね。
――まずは、子どもでも興味があるなら運転させてみるってことですね。
もし、子供にクルマ関連のことをやらせてみたい親御さんがいらっしゃるなら、きちんとプロのレーシングドライバーが教えているカートスクールもありますよ。
――野尻さんのカート通いは、お父様が送り迎えをしてくれたのですよね?
最初は土浦にあるキッズカート専門の場所へ、毎週末に連れて行ってもらいました。そこから他のサーキットにも行くようになりましたが、どこかのカートスクールに入るのではなく、いつのまにか両親と一緒にカートへ行くのが、我が家の週末の行事になっていた、という感じです。
――お母様から「危ないからやめて」と言われたことは?
いや、幸いなことにそれは無く、母もよく応援に来てくれます。なかにはそう親が言うので続けられない人もいるのですけど、うちの親はまったくそんなことは言いませんでした。きっと、僕があまりにも楽しくやっていたのでしょう(笑)。
――楽しそうにしている野尻さんを見るのは、ご両親も嬉しかったのでしょうね。子どもの習い事としては、親にとっても敷居が高いカートかもしれませんが、毎週連れて行ってくれたのですから。
決して安くはないですけど、今は手ぶらで行けるようなカートスクールもありますから、僕の小さい頃よりも気軽にできるはずですよ。
どっぷりやりたい人は、ハイエースなどを買ってお父さんがカートを整備するというやり方もありますし、そのご家庭にあった楽しみ方があると思います。
――子どもがカートに目覚めてしまった家庭はバンを買うしかないと?(笑)。
はい。僕もどっちかというと、親がのめりこんでしまった方ですので(笑)。
――野球にもサッカーにも興味がない息子がいて、何をやらせてみようか悩んでいる親もたくさんいます。カートっていう世界もアリですよね。
ぜんぜん悪くないですし、むしろカートは男の子には良いですよ。周りが大人ばかりなので、役に立つことが多いですしね。
――カートをやっていて良かったと思えることは?
親から教えてもらえないようなことも、周りの大人からたくさん教えてもらいました。
なかには厳しくてイヤになってしまう子もいるかもしれませんけど、レースをやる中で、一歩ずつ階段を上って、日々いろんなことを学びながらここまで来られたと思っています。
――カートの結果と一緒に、大人の階段も登ってきたわけですね。
もしカートを始めていなかったら、普通に大学生になって、普通に働いて、という人生だったかもしれません。それはそれですごく幸せな道だと思うのですけど、それでは学べないようなこともカートの世界で学ぶことができたので、僕がまだ小さい頃からカートに乗せてくれた親にすごく感謝していますもしカートを始めていなかったら、普通に大学生になって、普通に働いて……という人生だったかもしれません。
それはそれですごく幸せな道だと思うのですけど、それでは学べないようなこともカートの世界で学ぶことができたので、僕がまだ小さい頃からカートに乗せてくれた親にはすごく感謝しています。
――モータースポーツの世界に足を踏み入れるきっかけになったのは、幼い息子を心配した親心。そんなご両親への感謝の言葉を口にする野尻さんは、今や国内モータースポーツの最高峰でレーシングドライバーとして活躍しています。子どもに何かやらせたいという親は、一度サーキットに足を運ぶと、親子で何かを始めるきっかけになるかもしれません。
気になる愛車は?トップドライバーのカーライフ
photo by HONDA ODYSSEY
――野尻さんの考える「クルマの楽しみ方」はどんなところでしょう。これから免許を取る若い世代はもちろん、私たち親世代にも教えてもらえませんか?
いろんな楽しみ方があるとは思うのですけど、ドレスアップしたりすることは正直あまり興味がないです。
僕はわりとクルマでいろんなところに出かける方が楽しいと思える人間なので、ワインディングロードを運転したり、景色の良いところに行くのが好きですね。
――プライベートではどんな車種に乗られているのですか?
オデッセイです。
――ぜんぜん、スポーツタイプのクルマではないのですね。
そうですね、安全運転で法定速度を守って(笑)。レースウィークに入ると人が乗ることも多いですし、荷物も増えるので、オデッセイはなにかと使い勝手が良いですから。そこは普通の人と同じ視点でクルマを選びますよ。
――車高が低くて、スピードが出るクルマには?
僕のはノーマルです(笑)。でも、いわゆるスポーツカーは乗るとやっぱり楽しいですよね。オデッセイしか普段は乗っていないですけど、イベントなどでスポーツタイプに乗ると、こういうクルマ欲しいなって思っちゃいますね。
ホンダで言えばS660とかシビックの限定車。僕はやっぱり走ることが好きなので、その視点から言えば、日常でも法定速度内でも、興奮できるクルマには魅力は感じます。走りが軽快な方が、やっぱり乗っていても楽しいですからね。
――若い人のクルマ離れもよく言われていますが、一回はスポーツタイプに乗ってみてもいいんじゃないかと?
今ならディーラーさんで試乗もできますからね。なかなかその一歩も踏み出す勇気がいるというか、億劫だったりすると思いますが、一歩を踏み出せば、二歩、三歩とすぐに行けるはずですし、ぜひその一歩に勇気を持ってほしいです。クルマにしても、モータースポーツにしても、きっと楽しみにつながると思います。
――助手席でも気にしない男子が増えていますが。
僕も助手席がいいですね(笑)。運転するのも好きですけど、景色を見るのが好きです。だから、女性がたまに運転してくれたら助かりますね。10回に1回くらいで良いのですけど(笑)
――ありがとうございました。トップドライバーとして活躍される野尻さんのプライベート、非常に興味深いお話でしたね。「まずは踏み出す一歩に勇気を」というお言葉、勇気づけられた方も多いと思います。これからの更なるご活躍、心からお祈りしています!
【野尻智紀・プロフィール】
1989年9月15日生まれ(26歳)茨城県出身
身長163㎝ 体重53㎏ 血液型B型
5 歳でカートを始め、中学生で全日本ジュニアカート選手権3位、高校生で全日本カート選手権FAクラスのチャンピオンに輝く。2007年、モータースポーツ の本場ヨーロッパへと拠点を移し、イタリアンオープンマスターズ、ヨーロッパ選手権、世界選手権、ワールドカップに参戦。2008年に「鈴鹿サーキット レーシングスクール・フォーミュラ」を主席で卒業し、翌年にホンダの育成ドライバーとしてフォーミュラカーデビューを果たす。その後、フォーミュラチャレ ンジジャパン、全日本F3選手権を経験。2014年より「スーパーフォーミュラ」に参戦し、第6戦スポーツランドSUGOで初優勝を飾る。同年には「スー パーGT」のGT300クラスでも活躍し、2015年にはGT500クラスへとステップアップ。
2016年シーズン、スーパーフォーミュラには「ドコモ・ダンデライアン」より、スーパーGTには「ARTA(オートバックス・レーシング・チーム・アグリ)」より参戦中。国内外から大きな注目を集める2つのレースカテゴリーで活躍するレーシングトライバー。
野尻智紀オフィシャルウェブサイト
twitter@tomoki_nojiri
(取材・小池りょう子)
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