VW、世界販売台数トップに トヨタを抜き去る
朝日新聞
先日、この様なニュースが世間を賑わせました。
ところが、こんなニュースもあります。
トヨタ、3年連続世界首位に 初の販売台数1千万台超え
朝日新聞
果たして、トヨタは首位を陥落したのか、それとも実はフォルクスワーゲンは首位に立っていなかったのか。今回は、トヨタとフォルクスワーゲンの2社を中心に、世界の自動車販売情勢についてインフォグラフィックスで解説します。
トヨタがVWに負けた!?
2013年に販売台数1000万台という前人未到の数値を叩き出したトヨタ。その背後にピタリとついてきたのが、欧州最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)です。
2014年にはVWもトヨタに1年遅れて販売台数1000万台を達成。じきにVWがトヨタを追い抜くのでは?という憶測も飛び交っていました。
「暦年」と「年度」でトップが入れ替わる激戦!
しかし、報道では「トヨタ1位説」と「VW1位説」が織り交ざっています。これはなぜなのでしょうか?
答えは集計する期間が異なるためです。
2014年暦年(1~12月)の世界自動車販売は、トヨタ自動車がわずか10万台の差でVWをおさえて3年連続のトップを維持しました。
一方2014年度(2014年4月~2015年3月)の世界自動車販売台数は、トヨタが0.3%増の1016万8000台と伸び悩んだのに対し、VWは3.3%増の1018万4000台でVWがトヨタを僅差でかわし、初のトップに立ちました。
この様に、集計する期間によって販売台数が入れ替わる両社ですが、それぞれが得意とする地域は大きく異なるようです。
ここからは世界市場の様子を地域別に詳しく見ていきましょう。
得意地域が異なる両メーカー
世界の販売台数では肩を並べることとなったトヨタとVWですが、それぞれが数を稼ぐ地域は大きく異なります。
このように、どちらかが得意とする地域は、もう一方は不得意とする関係にあることがうかがえます。
トヨタは北米・東南アジア、VWは中国
続いて、両社の世界自動車販売台数の内訳を地域別に詳しく見てみましょう。
地域 | VW | TOYOTA |
---|---|---|
日本 | 1% | 23% |
北米 | 9% | 25% |
欧州 | 39% | 8% |
中国 | 36% | 10% |
その他アジア | 3% | 16% |
中南米 | 8% | 5% |
その他 | 4% | 13% |
トヨタは日本・東南アジア・北米が多く、一方VWは、欧州と中国だけで全体の7割以上を占めています。正面からぶつかり合う市場がないことがわかります。
中国で不動の地位を築くVW
VWの急成長ぶりは中国における伸びで説明がついてしまいます。販売台数は直近7年間で3倍に成長しました。
VWの中国での歴史は1984年に始まり、長年雇用に貢献してきました。また、中国とドイツの外交関係が良好であり続けています。こうしたことも大きく影響し、VWは中国政府に対して他者と比較にならないほどのパイプを持っていることが急成長を続けられる理由のようです。
巻き返し狙うトヨタ
一方のトヨタは、不安定な日中関係に振り回されがちです。将来的な目標として年間販売2000万台を掲げてきたトヨタですが、地道に販売台数を積み重ねていくしかなさそうです。
ただ、トヨタも足踏みばかりしているわけではありません。2013年から凍結していた新工場の建設を再開し、中国では、自動車大手の広州汽車集団(広東省)との合弁会社、広汽トヨタが2017年末に工場を新設し小型車を年10万台の規模で生産する予定です。
売上高ではVWに軍配が上がるも、営業利益ではトヨタに軍配上がる
トヨタは規模拡大にこだわらない成長を持続する戦略を鮮明にしていて、コスト削減など地道な取り組みを続けてきた結果が高い営業利益率につながっています。
一方、VWは売上高は高いですが、アウディやポルシェを含む12ブランドを抱えています。売上の構成も半分以上をアウディやポルシェといった高級車が稼いでおり、全体的に営業利益率が低くなってしまっています。
2014年の営業利益は2兆5510億円と、自社ブランドの利益率が低く生産や開発コストが重荷になっているVWを依然突き放しています。
激戦を繰り広げるのは2社だけではない!?
2014年世界販売台数ランキング
1位 トヨタ自動車グループ(日) | 1023万台 |
---|---|
2位 フォルクスワーゲングループ(独) | 1014万台 |
3位 GMグループ(米) | 992万台 |
4位 ルノー・日産グループ(仏・日) | 847万台 |
5位 現代自動車グループ(韓) | 771万台 |
6位 フォード(米) | 632万台 |
7位 フィアット・クライスラー・オートモービルズ(伊・米) | 461万台 |
8位 本田技研工業(日) | 436万台 |
9位 プジョーシトロエングループ(仏) | 294万台 |
10位 スズキ(日) | 288万台 |
トップ3社に見る自動車産業激戦化
2014年の世界自動車販売台数は、トヨタ・VWに次いでGeneral Motors(GM)が3位に位置しています。
2013年に販売台数1000万台を突破したVWに抜かされたGMですが、それまで6年間はトヨタに次いで世界2位をキープ、10年前の2004年時点では、販売台数671万台のトヨタに100万台以上の差(809万台)をつけて首位にいました。
近年は、トヨタとGMが繰り広げてきた首位争いに、中国でのロビー活動に力を入れ着実に販売台数を伸ばすVWが参戦するかたちになっています。
GMの”ホーム”アメリカでの2015年4月の新車販売台数は前年同月比4.6%増の145万4951台。トップはGMで26万9056台、同じく米メーカー・フォードモーターに続き、トヨタは20万3329台を販売し3位。前年同月比1.8%増で、7年ぶりの高水準をマークしています。
VWとGMは中国で激戦を繰り広げています。2015年1〜3月の中国新車販売数は、GM(93万9203台)がVW(89万8400台)を抑えてトップに。GMが、2014年通年の中国販売台数がトップだったVWと入れ替わり、3月には過去最多の販売台数となりました。
ただ、VWは昨年から今年1月までの生産調整を終えたあとは販売台数を伸ばしており、今後も上位が入れ替わる可能性は大いにあります。
今後の展望は?
トヨタ:共有化×差別化=「TNGA」で設計革命
Photo By Youtube
2012年にトヨタが公表した新しい開発方法「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」。車の足腰にあたる基本部分を共有化する一方で、外観や内装は差別化を徹底し、開発の効率化と商品力アップを目指すものです。
開発責任者一人が個別モデルを作り上げるという、これまでの「チーフエンジニア(CE)制度」を見直しました。
MQBでの開発アプローチ
・中長期の商品ラインナップを確定
・車のアーキテクチャー(基本機能や主要部品の配置など)を策定
・必要な部品のモジュール化し多くの車種で共有
少なくとも2020年までは、TNGAとTNGA対象外の車種が並存するため20%とされる開発効率の向上効果が出てくるのはその後になります。ただTNGAのメドがついたことで工場新設が再スタートしました。
生産技術の抜本改革も推進するトヨタは競争力を内側から鍛えていくこととなるのでしょう。
VW:「MQB」の立ち上げで営業利益UPできるか
VWは販売台数に見合った利益を生み出せていないことが悩みですが、「MQB」とよばれるモジュラー生産システムが、その解決の鍵を握っているといっていいでしょう。
MQBは、開発・生産にかかる時間とコストを大幅に削減する考え方であると大きな話題を集めました。
MQBはセグメントの枠を超えて共通パーツを増やし、生産コストと車両コストの抑制、主要技術の共有、そして最高水準の強度の確保を実現させることを目的に開発された。
出典:Wikipedia
しかし、実際に導入してみるとトラブルが多発。加えて世界各地の工場でMQB対応のために多額の投資が行われていて、今はまだ償却費がかさむ我慢のときとなっています。
ただ、今後MQBがVWの「ポロ」「ジェッダ」などの小型の定番車にも適用されれば、量産効果が出て利益に大きくつながると考えられます。
総括
トヨタ自動車が販売台数世界トップから転落する、という衝撃的なニュースから今回は様々な確度からデータをまとめました。
その結果、実は集計する期間によって販売台数のランキングが変動することがわかりました。さらに詳細に販売台数の比率を見てみるとそれぞれが得意とする市場が異なることがわかります。
イキなクルマで編集部では今後も、こうしたトレンドニュースを1段深堀りし、本当の姿を明らかにしていきます。
トップ画Spanish Coches・Mike Mozart
(編集・執筆:サムライト)