ホンダが30年余りの開発期間を経て、ついに完成させたホンダジェット! その独創的なデザインや性能からグッドデザイン賞金賞など、数々の賞を受賞し、2017年には小型ビジネスジェット機として世界一の出荷台数を記録しました。
ホンダは自動車やバイクを中心とした機械工業のメーカーですが、なぜ30年という長きにわたってジェット機にこだわり続け、成功を収めることができたのでしょうか。
今回は、ホンダジェットの人気の秘密とホンダジェットから見えてくるホンダという企業の魅力に迫ります。
ホンダジェットとは?
ホンダで航空機の開発が始まったのは、今をさかのぼること約30年前の1986年。開発陣の誰もが手探りの状態で開発がスタートし、バブルの崩壊やリーマンショックといった経営難を乗り越え、ついに実現した小型ビジネスジェット機がホンダジェットです。
特徴の一つは、ホンダジェットを構成するほぼ全てのパーツがホンダの独自開発・生産であること。通常、ジェット機ではエンジンや胴体・主翼などに異なるメーカーで開発・製造されたものを使用することが多く、技術屋と称されるホンダならではのエピソードとなっています(実際に製造販売を行うのはホンダの航空事業を担う子会社「ホンダ・エアクラフト・カンパニー」)。
ホンダジェットは2017年に出荷台数が47機となり、小型ビジネスジェット機の分野で米セスナを抜き、販売台数世界一となりました。価格は450万ドル(日本円で約4億8,000万円)で、日本人では日本通信の三田聖二会長が実際に購入しています。ホンダジェット以外にもすでに小型ジェット機を所有している氏ですが、ホンダジェットの約1万3千メートルにもなる最高高度や788km/hの最高速度など、その性能を高く評価しています。
ホンダジェットのエクステリア
ホンダジェットのエクステリア最大の特徴と言えば、主翼の上部にエンジンを備えた独特のレイアウトでしょう。小型ジェット機では機体の最後尾に設置されることの多いエンジンを主翼の上部に配置することで胴体部分の室内空間を確保、見た目だけでなく、理にかなった先進的なレイアウトとなっています。
ホンダジェットのデザインは、ホンダエアクラフトの現社長である藤野道格氏がイタリアの高級ブランド「フェラガモ」のピンヒールから着想を得たものだと言われています。実際、前面から尾翼へと流れる美しいボディラインには、ピンヒールを思わせるデザイン性を感じます。もちろんこのデザインは美しさだけでなく、自然層流技術と言われる空気の流れを計算し、開発されたものとなっています。
こうしたデザイン面での工夫もあり、ホンダジェットは小型ジェット機において最高クラス静粛性、室内空間、最高速度、最大運用高度、上昇性能、燃費などを実現。カラーバリエーションを用意しており、高級スポーツカーを購入するような感覚で購入体験を味わえる、スポーツカーのような小型ジェット機となっています。
ホンダジェットのインテリア
ホンダジェットのインテリアはまさに高級、億を超える商品なだけのことはあり、上品かつラグジュアリーに仕上がっています。
乗員定員は操縦士2名を含め最大7名。贅沢に足を伸ばせる空間を確保しつつ、高級感溢れるレザーシートを装備。シートだけでなく内装全体、操縦席に至るまで高級感のある作りとなっており、所有満足度を高めるのに一役買っています。尾翼上部にエンジンを配置することでキャビン後部にゆとりがあるのもホンダジェットの特徴の一つ。化粧室はもちろん、乗員全員のゴルフバッグもすっぽりとおさまってしまう荷室も備えています。
ホンダジェットのコンセプトを存分に感じられるCM
テレビでの放送回数こそ少ないものの、ホンダジェットのCMは「YouTube」などで話題となり、配信後1ヶ月で2,000万回もの放送回数を記録しました。CMはホンダ・シビックをはじめとした車が列をなすNYを思わせる都市部が舞台。交差点で軽快な動きを見せる交通整理員にフォーカスしたかと思うと、車に変わりホンダジェットが顔を出し、都市部の道路から飛び立っていくという内容です。
ホンダが航空機開発をはじめた、当初のコンセプトは、自宅から車のように出かけられる航空機です。価格的にもまだまだその域ではないにしろ、開発初期のコンセプトを貫き、新しい移動手段の提案を行い続ける、ホンダらしいCMとなっています。
ホンダ・シビックに流れるホンダイズム
上で紹介したCMは「Go, VantagePoint」と呼ばれるシリーズの第2弾となっており、商品そのものよりもホンダの企業PRに主軸を置いた内容となっています。第1弾は新型ホンダ・シビック、第2弾がホンダジェットです。
ホンダジェットのCMをご覧になった、往年のホンダファンの方なら、冒頭に登場したホンダ・シビックに思わず反応した方も多いのではないでしょうか? シビックとは日本語で「市民」を意味する英単語。長年モデルチェンジを重ねながら販売され続けてきたホンダの代名詞とも言える車です。現在はサイズも大きくなり、北米マーケットやニュルブルクリンクでの最速争いに精をだしていることもあり、どこか日本から距離を感じる存在になっていましたが、久々に日本に帰ってきた新型は思いのほか受け入れられ、予約の段階で1万2,000台もの受注を獲得しています。
「Go, VantagePoint」シリーズのCMを見ていると、ホンダ・シビックで出かけてみたい、ホンダジェットで気軽に空の旅を楽しみたいと、移動を楽しみたいという欲求がわいてきます。こうした出かける楽しみを提案するのが、いわゆるホンダイズムなのでしょう。
ホンダジェットに感じる次世代の移動の楽しさ
ホンダとはエンジニアの集団であり、常に新しい「移動の楽しみ」を提案してくれる自動車メーカーです。タイプRシリーズならそのエンジンサウンドや過激なパフォーマンスを、ミニバンならその利便性を、そしてホンダジェットなら気軽に楽しむ上質な空の旅を……。いつかは本当に自宅から気軽に楽しめる空の旅を実現する、そんな可能性を感じさせてくれます。