トヨタやホンダ、日産といった自動車メーカーを中心とした11社が、平成29年12月12日、FCVの普及を目指す新会社を平成30年春に設立すると発表しました。読者の中には「FCVって何?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。確かにEV(電気自動車)と比べて聞きなれない単語ですが、FCVとは燃料電池自動車のことを指します。
世界的にEVの普及が進む中、なぜ今FCVなのでしょうか? 今回はFCVについてはもちろん、代表車種やメーカーの狙いも交えてお伝えします。
冒頭でも述べた通り、FCVとはFuel Cell Vehicleの略で、直訳すると燃料電池自動車となります。燃料は水素で、水素と酸素を化学反応させることで電気を発生させ、そのエネルギーでモーターを回転させて動力を得る、つまりは電気自動車の一種です。
現在主流となっているEV(電気自動車)には、リチウムイオンバッテリーの容量が少なく従来の自動車に比べて航続距離が少ない、急速充電であっても30分近く充電に時間が掛かってしまうという欠点を抱えています。こうしたEVの欠点に対して、FCVなら燃料である水素の補充には数分程度しか掛かりません。それでいて700km以上というEVはもちろん、従来の自動車をもしのぐ航続距離を確保できてしまいます。水素を燃料とするため排出ガスは発生せず、ガソリンエンジンを搭載するトヨタ・プリウスなどのHV(ハイブリッド車)よりもクリーンだというのもポイントです。
現在主流のEVやHVに比べてもメリットが見いだせるFCVですが、当然デメリットも多数あります。まず言われているのが高い車両価格です。日本で発売されるトヨタ・MIRAIやホンダ・クラリティ フューエルセルの車両本体価格は700万円台と一般的な5ドアセダンとしては非常に高価。補助金も出ているので実際は500万円台で購入可能なのですが、それでも高価な車というのは変わりありません。
そして、FCVの普及を阻む最大のデメリットとして考えられているのが、水素ステーションです。そもそも水素は腐食しやすく、爆発しやすいという非常に扱いにくい物質です。そのため、水素ステーションの建設には通常ガソリンスタンドに比べて5倍近くコストが掛かると言われていました。このインフラ整備についての課題はかつてEVでも取り沙汰されていましたが、2017年現在で日本に存在している電気スタンドの数は20,000ヵ所以上! 電気スタンドは一般家庭であってもわずか10万円前後と安価に取り付け可能なため、急速に普及が進んでいます。こうしたインフラ整備という点での差が大きくあるため、FCVの普及はEVに比べて進まないと言われる原因にもなっています。
こうした状況に一石を投じるのが、平成29年12月12日に設立が発表された新会社。この新会社は水素ステーションの普及を加速させるのが最大のミッションなのです。こうした新会社の後押しで水素ステーションが増えていけば、FCVの普及も加速することになるでしょう。
希望小売価格:723万6,000円
2014年12月15日にトヨタから販売が開始された、世界初の量産型FCVがトヨタ・MIRAIです。燃料の補充はわずか3分しかからず、それでいて航続距離は約650kmにも達します。補助金も適応すると価格は5,220,000円ですが、この販売価格に対してドイツの自動車メーカーが「ゼロ1個間違っている。7000万円だろ」と言ったという逸話もあります。
希望小売価格:766万0,000円
1980年代からFCVの研究開発を行ってきたホンダの市販第一号となるFCVがホンダ・クラリティ フューエルセルです。ホンダの搭載される水素圧縮タンクにトヨタ・MIRAIと同じ物を採用。水素ステーションの共通化を図っています。
実はこの車にはプラグインハイブリッドであるホンダ・クラリティ プラグインハイブリッド、EVであるホンダ・クラリティ エレクトリックの2車種がラインアップされていて、後者は2017年8月4日からアメリカで販売が開始されています。前者についても2018年に日本での導入がアナウンスされており、2017年現在、販売方式はリース販売のみとなっています。
トヨタとホンダのみがFCVの市販車を発表していますが、日本の自動車メーカーだけでしかFCVの研究を行っている訳ではありません。ドイツのメルセデス・ベンツでもFCVの開発が進められており、2017年の東京モーターショーではFCVにプラグインハイブリッドを組み合わせた世界初の自動車GLC F-CELLが発表されています。また、史上初めて道路を走ったFCVはアメリカのゼネラルモーターズが開発した「Electrovan」と呼ばれる自動車でした 2017年にはBMWやゼネラルモーターズ、フォードといった世界の自動車メーカーが、日本の自動車メーカーとFCVの分野で共同開発の動きを見せています。
EVに比べればインフラ整備が進んでおらず、販売価格も高いため普及が疑問視されることもあるFCV 。にもかかわらず日本や世界の自動車メーカーがFCVに研究開発という形で投資を行っているのは、FCVの普及が進む可能性を、各自動車メーカーが認めているからです。インフラ整備が進み、量産化のめどが立ち、販売価格を落とすことができれば、FCVも既存のガソリンエンジン車に変わる選択肢の1つとして存在感を発揮できる。その時に他社に対して乗り遅れないよう、今の内から投資をしておきたいというのが、各自動車メーカーの思惑です。実際ホンダ・クラリティは燃料電池・プラグインハイブリッド・EVという3種のパワートレーンを選択できる車として開発されています。次世代のパワートレーンとして、EVに続く選択肢の1つというのが、2017年現在におけるFCVの姿です。