シリーズ月刊高森は、元横浜ベイスターズの高森勇旗氏がここでしか読めないエピソードについて語る企画です。第6回の今回は、自身も経験した戦力外通告について、当時の心境やトライアウトに至るまでを語っていただきます。
第1回
「プロ野球選手っぽくある」ことも意外と大変。元ベイスターズ高森 勇旗が語る野球×車 秘話
第2回
「買う・乗る・語る」だけが車じゃない。高森勇旗だけが知っている助手席のエピソード
第3回
「一般人は決してプロ野球選手と焼肉に行ってはいけない」元首位打者 鈴木尚典と一晩で7500kcal食べた話
第4回
【投手野手別】こんな選手はプロでも通用する。数字や見た目にだまされない甲子園球児の伸びしろの見つけ方
第5回
野球選手ケガ多すぎw元プロ選手高森「原因は◯◯だ!」
さて、11月になりました。
この月刊高森が始まってからはや7ヶ月。僕の性格上、3回くらいで終わるかと思いきや、編集側の粘り強い、そして根気強いお付き合いによって、ここまで続けることができました。奇跡です。改めて、感謝申し上げます。
意外と読者も多いようで、
「見てますよ!月刊高森」
という声も知人から聞こえてきます。
(ただ、「クルマとは全く関係ないけど、あれはどういう趣旨なの?」という声も聞かれます)
ちなみに記念すべき3回目はこちら。
「一般人は決してプロ野球選手と焼肉に行ってはいけない」元首位打者 鈴木尚典と一晩で7500kcal食べた話
意外と知られていない「ドラフト指名の後」にすること
さて、日本シリーズもドラフトも終わりまして、各選手の移籍先や契約内容も非常に興味がありますが、「今回はドラフト指名された選手の、入団まで」をご紹介します。
これ、意外と知られてませんよね。僕も、思い出しながら書きますのでお付き合いくださいませ。
運命の日、ドラフト指名当日
まずは、ドラフト指名された当日から。
僕は指名されるかどうかギリギリのラインの選手だったので、本当に蓋を開けてみないとわからない状態でした。
新聞は各紙とも、「指名確実」との予想でしたが、指名される本人は、スーパードキドキです。前の晩はあまり寝られなかったことをよく覚えています。
ドラフト当日は、学校自体がテスト期間だったので午前中で授業は終了。午後からのドラフト指名を待ちました。
会場は、学校内の視聴覚室。一段高くなった教壇のようなところに、長テーブルと、花とマイク。
「おぉ、テレビでよく見るやつ」
と思いながら、部長、監督、僕と、3人が並んで座ります。
目の前にはなぜか30名近い報道陣。きっと「指名確実」を信じて来てくれたのでしょう。あとは同級生が20名弱。僕がますますプレッシャーを感じたことは言うまでもありませんね。
突如発生するトラブル…!!
ドラフトが始まりました。
なんと、視聴覚室のクセにテレビが故障!
なぜ、この大事な時に!
ロールスクリーンにインターネットの速報をプロジェクターで投影しながら、それを全員で見る、という異様な光景でスタートしました。
「第一巡選択希望選手。田中将大。投手。駒大苫小牧高校」
「おぉ〜」
第一巡で呼ばれることはありませんからね。
ここは普通に視聴者の気持ちで見てました(スクリーンを)笑。
運命の第3順目
第3巡。
あるならこの辺りから。
(当時は高校生ドラフトといって、大学社会人と分離していましたから、多くても4巡目までだったのです)
指名なし。
この時点で、冷や汗が止まらなかったのをよく覚えています。
(これは、報道陣の方々に”敗戦の弁”を述べた方が良さそうだ)
と、本気で頭の中で復唱していました。
第4巡。
「選択終了」
「選択終了」
・・・・。
よし、今回は指名がなかったけど、また頑張ってプロを目指そう。
(「本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。今回は残念な結果に終わってしまい・・・」よし、噛まずに言えそうだ)
訪れる最後の一枠
次々と選択終了が表示され、最後の一枠。
横浜ベイスターズの欄が空欄でした。
(ベイスターズか。確か一回だけ見に来てたかな。本日はお忙しい中お集まり・・・)
「高森勇気。捕手。中京高校」
「おぉーーーーーーーーーーーーー!!!」
(・・・・!!!!)
一斉に撮影準備に入る報道陣。
(おそらく、カメラを片付けていた人もいるでしょう)
代表質問者に集められる無数のマイク。
湧き上がる同級生。
いやぁ、この時ほどパニックになったことはありませんね。
自分の名前が、ドラフト指名の枠の中に入る瞬間。あの瞬間ほど、自分の名前を疑ったことはありません。
早速、代表質問が始まります。
「高森選手、今のお気持ちは?」
「横浜ベイスターズにどんな印象を持っていますか?」
「どんな選手になりたいですか?」
「対戦したい相手は?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問。
その全てに、全く答えることができません。
なぜなら、つい3分前まで、
「本日はお忙しい中お集まりいただき・・・」
を復唱して、完璧にしていたからです。
しかも、横浜ベイスターズ・・・
正直、知らない!(すみません!)
高校の売店すら順番を譲ってもらえるヒーローに
しどろもどろした会話に終始し、人生史上最高につまらない記者会見になりました。
(テレビの故障した)視聴覚室を出ると、校庭にてお決まりの胴上げです。
誰が調達したのか、ベイスターズの帽子もあります。
(急いで近所のスポーツ用品店に買いに行ったそう。ただ、子供用しか売っておらず、サイズがめちゃくちゃ小さい!)
そして、よくありがちなガッツボーズ写真。
なぜか、顔も名前も知らない女子生徒が集まりだし、よくわからないポーズで撮影。
(あれはなんだったんだ?)
そして、電話の嵐。
夜寝るまで、電話が鳴り続ける。
最後の方は、「もしもし」よりも先に、「ありがとうございます」と言っていた。
興奮冷めぬまま、眠りにつきました。
(本当に、プロ野球選手になった。すごいことだ。明日になったらやっぱりなかった、ということになっていないだろうか)
朝になりました。
寮に届く中日スポーツにしっかりと載っています。
(一面はもちろん、地元中日一位指名の堂上選手。帽子のサイズが合っていないカッコ悪い僕は小さめです)
指名されてから数日間は、学校でも超有名人扱いです。
お昼ご飯を買うために売店で並んでいたら、先に買わせてくれます。
校庭を歩けば、あちこちで女子が噂をしています。
(と、錯覚を起こすほど)
喜びの後に訪れる「不安」
取材の嵐も終わり、一週間もすれば周りも落ち着きだしました。
売店でも順番を抜かされるようになりました。
さて、ここから襲ってくるのは「不安」です。
「果たして、俺は通用するのだろうか」
「すぐクビになったりしないだろうか」
「これからどんな練習をすればいいのか」
不安をかき消すように練習をしますが、消えることはありません。
どんなに練習をしようとも、「プロ野球選手」というハードルがどこに設定されているかが分かりません。
プロ野球選手として最初に経験するのは、この特殊な喜びと、特殊な不安と向き合うことでしょう。
おっと、ドラフト当日の話をしているだけで、気が付けばこんなに書いてました。
ここから仮契約、身体能力テスト、入団会見、入寮、合同自主トレ、キャンプまでのお話はまた次回。
ご期待下さいませ!
高森 勇旗
1988年5月18日生まれ。2006年横浜ベイスターズに入団。背番号は62(2007-2012)。2013年から社会人野球のエスプライド鉄腕に加入。現在はスポーツライターとしても活躍中。『イキなクルマで』では月刊高森企画として元プロ野球選手だから語れる「プロ野球選手×車」についてなどの様々なエピソードを連載していく。
-過去のシリーズはこちら-
第1回
「プロ野球選手っぽくある」ことも意外と大変。元ベイスターズ高森 勇旗が語る野球×車 秘話
第2回
「買う・乗る・語る」だけが車じゃない。高森勇旗だけが知っている助手席のエピソード
第3回
「一般人は決してプロ野球選手と焼肉に行ってはいけない」元首位打者 鈴木尚典と一晩で7500kcal食べた話
第4回
【投手野手別】こんな選手はプロでも通用する。数字や見た目にだまされない甲子園球児の伸びしろの見つけ方
第5回
野球選手ケガ多すぎw元プロ選手高森「原因は◯◯だ!」
第6回
戦力外通告を受けた男、高森勇旗が語るトライアウトの舞台裏