スカイラインと並び、フェアレディZは半世紀以上、日産の伝統ある代表的スポーツカーとして、日本そして世界で愛されてきました。貴婦人の名を冠するこの車の特徴的なデザインに惚れこむ人も多いのもうなずけます。今回はその中でも、1990年代に販売されたZ32を中心に、フェアレディZの魅力についてふり返っていきたいと思います。
旧車としてのZ
Z32について話す前に、まずは先代モデルについておさらいしておきましょう。
ダットサン・フェアレディの流れを引き継ぐ形で1969年に販売開始された初代S30型は、50万台以上の世界総販売台数を記録し、フェアレディZ及びダットサン(日産の輸出モデルの称)の名を広く知らしめました。軽量かつスリムなボディに、L型直列6気筒エンジンを搭載しており、かつリアのトランクも比較的広いため、実用性と走行性能を両立したスポーツカーいえるでしょう。現在でも人気は非常に高く、レストアして大切に乗られるオーナーさんをよくお見かけします。海外でもS30への人気は高く、「Z」という称号で、以降4世代のフェアレディZの系譜の象徴的存在となりました。
1978年にはフルモデルチェンジが行われ、S130型となりました。ボディが多少大型化されたものの、ロングノーズショートデッキな先代のデザインを引き継いでおり、こちらも累計50万台近く売り上げる人気車となりました。また、Tバールーフと呼ばれるルーフを取り外せる仕様を日本で初めて取り入れた車である点や、ガルウィングに改造され、ゴールドとブラックのマンハッタンカラー仕様で、「西部警察」に登場する点など、話題となるポイントが多く、誰もが一度は憧れる車でした。
VG系エンジンのはじまりZ31
1983年、フェアレディZはフルモデルチェンジを果たし、Z31型が発売されます。ロングノーズという共通点を残しつつ、リトラクタブルヘッドライト(厳密にはパラレルライジングヘッドライト)を採用。より空力を重視したデザインになりました。また、エンジンも直列6気筒のグレードもあるものの、北米市場のブランド力向上を狙ってV型6気筒のVG型エンジンが主流となりました。
そうした影響もあり、北米では引き続き人気でしたが、国内ではスカイラインやシーマなど他のハイスペックな車が人気を博したこともあり、以前ほどの人気ではなかったという側面もあります。しかし、そのZとしては特徴的なヘッドライトが好まれたり、RB20エンジン搭載モデルにスカイラインGT-RのRB26エンジンを乗せ換えるチューニングなどのベース車として使用されたりすることもあり、現在でもファンからの人気は根強くあります。
力強い究極のスポーツカーZ32
photo by Rudolf Stricker(CC 表示-継承 3.0)
1989年に発売されたZ32型は、この時代の技術の結晶といえるでしょう。従来のデザインを一新し、ワイド&ローという流麗かつ迫力のあるデザインになりました。搭載されたVG30DETTエンジンは、当時の国産車としての最高出力280馬力を発生させ、90年代の国産自動車メーカーの馬力自主規制の基準となりました。
同時代の日産スポーツカー、スカイラインGT-Rと比較すると、Z32の特徴としてボディやエンジンの低さ(重心の低さ)が挙げられます。これにより高速域での加速の良さと安定性が得られました。現在の日本では衝突安全性などの理由でZ32ほど低いボンネットの車を生産することは難しいこともあり、今でもこの低さを好むファンは多いでしょう。ただし、V6ターボエンジンを低くコンパクトに収めた代償として、エンジンルームの整備性は非常に悪い点や、エンジンの熱による様々な不具合など、オーナー泣かせな欠点もあります。
また、低いボンネットにあわせて、非常に傾斜が浅いヘッドライトが採用されており、これはランボルギーニのディアブロにも流用されています。3ナンバーボディになったのもZ32からで、車両重量も1.5トン近くと、先代とはかなり違う味付けとなっており、以降のZ33やZ34といった大排気量スポーツカーの流れをつくりました。2シーターモデルと4名乗車モデルの二種がありますが、両者別のシャシが使用されています。このことからも、日産がフェアレディZを完璧なスポーツカーとして仕上げようとしていたことがうかがえます。Z32はワイドで大柄なボディですが、これまでのZと異なるショートノーズ化やワイドトレッド化によってハンドリングは良く、また、車両の重さを感じさせない高馬力高トルクによって、高い走行性能を実現しています。
バブル崩壊後も10年ほど販売されていたZ32ですが、2000年に販売終了し、2002年にZ33型が発売されるまでは一時絶版車種となっていました。
待望のZ復活
2002年に、フルモデルチェンジを経てフェアレディZが復活しました。以降のZ33、Z34は国内では2シーターのみの仕様である点や、デザインの大幅変更、さらに、これまでエンジンにはターボが使用されていたのに対し、Z33以降は全て自然吸気となり、スカイラインと共通のV6のVQ系エンジンが採用されるようになりました。Z33は6年間、Z34は2008年から今までと、長く愛され続けています。また、ラグジュアリーグレードのバージョンTやスポーツグレードのバージョンS、そしてニスモチューンモデルといった、需要に合わせたグレード選択が可能となり、幅広い顧客獲得に成功しました。
まとめ
「Z」の名には、ハイパフォーマンスな走行性能だけでなく、優雅さや乗り心地のよさも求められています。モデルチェンジによりかなり大きくデザインは変更されてきましたが、その点についてはどのモデルも非常に高い性能で期待に応えているでしょう。
90年代の名車Z32は、燃費や税金、整備性の悪さなど、今の日本では維持するのが難しいという側面も勿論あります。しかし、それを補って余りあるだけの走る楽しさを感じられますし、なにより90年代の“浪漫”を体現しています!新車をどんどん乗り換えていくのも一興ですが、古い車を綺麗に大切に維持していくのも粋な車の楽しみ方だなと思わせてくれる魅力を、「Z」は持っています。
【関連項目】
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