AMG GTは、生産終了を発表した大人気モデル『SLS AMG』に続くメルセデスAMG社による完全自社開発スポーツカーの第2弾である。
特徴はなんといってもその安定感。500馬力以上のスペックを持ちながらも、その操作性は素直。
どんなに加速をしても手に汗握ることのない安心感、それは一体どこから来るのだろうか。今回はその理由を探ってみた。
走りの安定感4つの秘密
1.エンジン
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第1の理由は新設計されたエンジンにある。
搭載エンジンはAMG4.0リットルV8直噴ツインターボエンジン。特にGT Sはパワーウエイトレシオ3.08、0-100km/h加速3.8秒を実現しており、最新テクノロジーが生み出す最高傑作と言えるだろう。
また、強固なクランクケースと鍛造ピストンが、優れたパフォーマンスと安定性をもたらす。さらに、フリクションロスを低減するためにシリンダー内壁は革新的なナノスライドコーティングが施されている。
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ドライサンプ潤滑システムも忘れてはいけない。これによりこのフロントミッドシップエンジンにとって、従来のオイルパンは不要な存在となった。
これらが総合され、エンジンの小型化が成され、低重心化を実現。それすなわち、ドライビングダイナミクスの大幅な向上と高い横加速度を可能にしたことを意味する。
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おっと、忘れてはいけないのがターボチャージャーの存在だ。吸気経路を最適化し優れたエンジンレスポンスを生み出すことに一役買っている。
この結果、今までにないレスポンシブなドライビング体験を得られるようになった。
2.理想的な前後重量配分
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前後重量配分の理想はいくつだろうか?
Mercedes-AMG GT Sは47:53という答えを出した。
ボディには、アルミニウムを中心とする素材を適材適所に配置することで、軽量でありながら高い強度を実現したアルミニウムスペースフレームを採用。
フロントまわりの一部部材をマグネシウム製としたことで、回頭性も高められている。さらに フロントミッドシップエンジンとトランスアクスルレイアウトのトランスミッションにより、理想的な47:53の前後重量配分を実現。
これが安定感を生み出す第2の理由になっている。
3.十二分なパワー
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自動車で最も重要なのはパワーである。
とは、トップギアの司会を長年勤めてきたジェレミー・クラークソンの考えだ。
パワーの源であるエンジンは新開発の4リッターV型8気筒ツインターボエンジン。これは、AMGの流儀である「One man,One engine」に則り、なんと職人の手作業で組み立てられている。
こうして作られたエンジンは低速〜高速でいかんなくそのスペックを発揮する。
低中速域でのこのエンジンは優秀な執事のように従順。有り余るほどの力はカドがきれいに丸められ、アクセル操作に対してリニアに反応する。
(但し、排気音はかなり大きく、日本の街中では相当気を使うが…)
更に右足を深く踏み込んでいくと回転計の針が猛々しいほどの勢いで上昇しはじめることがわかるだろう。メーターの上昇と同時に豪放なパワーが一気に炸裂。チョイ濡れの路面では4,000rpm以上は空転しっ放しになるほどだ。
そして、AMG GT Sの真骨頂7,000rpmからレッドゾーンへと至るトップエンドの吸い込まれそうなほどの伸びの良さはまさに「快感」そのもの!
低速が優秀な執事なら、高速はおてんば娘といったところだろうか。
男なら一度は乗り回してみたい1台に加えても問題ないだろう。
4.硬くて柔らかいハンドリング
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フットワークも刺激的な味付けがされている。
ステアリング操作に対して即座にノーズがインを向くだけでなく、クルマ全体が旋回モードに入っていくようなFRらしからぬ強烈な一体感を得られる。
もっとも、それはいつでも容易にオーバーに転じるという意味でもある。だが、いやだからこそ、できる限り右足はアクセルペダルの上にという運転を心がけていれば、十分にコントローラブルだ。
本気でタイムを狙うには簡単ではないが、楽しめるアシであることは間違いない。
座り心地についても忘れてはいけない。着座位置はかなり低めで、円形のエアダクトなど、こちらも近年のメルセデスに共通の意匠が取り入れられたデザインは、囲まれ感がかなり強い。
シート背後にはブリーフケースぐらいは置けそうですがリアシートはない。
メルセデスとして見ると、快適性、あるいは使い勝手の部分で首を捻りたくなる部分も無くはないが、走りを追求してきた結果だと思われる。
SLS AMGとAMG GTの違い
さて、ここでSLS AMGとAMG GTの違いについてもおさらいしておこう。
メルセデスAMG社によって完全自社開発第一弾SLS AMGの生産終了が発表されたのが2013年。その後継車として、2014年秋にAMG GTが発表されたのは自動車ファンにとって記憶に新しいことだろう。
SLS AMGで採用されていたガルウイングドアは継承されなかったものの、この決断によってAMG GTは実に流麗なエクステリアデザインと、革新的な構造のアルミニウムスペースフレームを採用することができた。結果、より魅力的な軽量性と低重心を実現することに成功した。
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この効果が最も顕著に表れるのは、言うまでもなくコーナリング時の動きだろう。
先程も紹介した47:53という前後重量配分値は、SLS AMGからの伝統的な数字でだが、ミッションとデファレンシャルをリアに搭載する、トランスアクスル方式を採用したことによるものだ。
コーナリングはきわめてスムーズで、積極的にターンインを演出しようというセッティングの意図もハンドル越しに感じられるだろう。
さらに、GT Sでは電子制御を採用していることも覚えておくべき事実だ。
これによって走行状況と路面の摩擦係数に応じて、可変ロッキング機構がより素早くきめ細かに作動する。結果、これまでよりもダイナミックなハンドリングと、強力なトラクション、コーナリングスピードの向上という恩恵を受けることができる。
まとめ
AMG GTシリーズには、スタンダードな「GT」と、高性能仕様となる「GT S」がラインナップされている。
結論を語れば、Mercedes-AMG GT Sは最新テクノロジーを駆使して本格的スポーツカーとしてのパフォーマンスと「大人の走りの快感」をとことん追求した車と言えるだろう。
大きな力を秘めていながらも、ドライバーのコントロールのしやすさも両立している。まさに、首輪のついたモンスターとでも言うべき1台だ。
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